第1回JDA九州ディベート大会

[安井 省侍郎]

日本ディベート協会通信 第18巻第2号
2004年1月30日


日本ディベート協会では、ディベートの普及のため、10年前から、日本語によるディベート大会の開催を行ってきました。6年前からは、春期、秋期の年2回の開催となり、より参加しやすくなってきました。しかし、これらはいずれも東京で開催され、(例外的に第5回秋期大会を福岡市で開催した。)これに遠くは北海道、九州から参加者が出場するという、地方在住者には負担の大きいものとなっていました。大会に限らず、JDAが実施しているディベートセミナーも、年1回関西で実施する以外は全て東京で実施されており、各地区での活動を充実させることが日本全体のディベート普及のために不可欠であるという認識は早くからありました。
これらの状況を受け、JDA本体の業務がある程度軌道に乗ってきた状況をふまえて、昨年の規約改正の際、支部を設けることができる規定を整備し、理事の業務分担でも、地方在住の理事を「支部設立担当理事」とし、積極的に支部の設立を行うこととしました。この結果、昨年、JDAの最初の支部として、JDA前会長の井上氏を支部長として、九州支部が発足しました。
九州支部では、ディベートセミナーを開催した他、初めてのJDAの地方大会である「第1回JDA九州ディベート大会」の実施を企画しました。大会は参加者の不足等から一度延期を余儀なくされましたが、幾多の困難を乗り越え、井上支部長を中心とした支部メンバーの努力により、ついに昨年12月に開催に至りました。
本特集では、この記念すべき第1回の地方大会の意義とその運営について、支部設立から大会開催までの中心的役割を担ってこられた井上、吉村両氏からの寄稿により紹介します。



第1回JDA九州ディベート大会の意義

[井上奈良彦]


JDA九州支部の設立も難産であったが、第1回九州ディベート大会も開催までに予想以上に苦労の連続であった。今回の大会の具体的な内容については別の記事に譲ることにして、ここでは九州大会を含め大会開催の意義を考えてみたい。

日本における競技ディベートの普及・発展にとって一番大切なことの一つは、選手(ディベーター)の公式試合参加の増加とそれを保障する定期的な大会の開催である。現在の勝利至上主義にまつわる弊害の原因の一つは、試合参加が少ないことにある。多くの選手にとって、一つの試合に賭けるものが大きすぎるのである。そのために、競技ディベートの教育的側面がおろそかになり、何が何でも勝ちたい、この試合に負けたら後がない、という心理がディベーターを(ひいては指導者をも)襲うのである。もちろん、一つ一つの試合をおろそかにしていいと言うのではない。目前の試合に勝てなくてもより望ましい戦略を追及したり(あるいは斬新な試みをしたり)、敗北を受け入れ次への糧にしようという態度を培うことが大切なのに、試合が少ないとそういった長期的視野を持ちにくいと言うのである。

また、公式試合の増加は、質の高い練習機会を提供することになる。ディベート能力の向上には実践が欠かせない。ディベート理論の勉強、資料調査、議論の準備、スピーチの練習など、しなければいけないことは多いが、やはり試合による総合的訓練、試合勘をつけるということが不可欠である。部内の練習試合や近隣のチームとの練習試合も可能であるが、正式な大会に参加することで、動機付けも高くなるであろうし、いろいろな議論を聞く機会も増え、普段接しない審査員からの批評を得ることができる。

もちろん、大会が増えても競技ディベートの人口が増えなければ普及とは言えないし、大会自体も参加者を維持できない。チーム対抗ディベートは個人ではできないので、ディベート・クラブがもっと増えなければならない。大会の存在はクラブの活動にとって格好の目標になる。また、今回の九州大会の特徴としてディベートの授業からのチーム参加も特筆したい。ともに支部の会員である荻野先生の指導された筑紫女学園大学チームと鎌田先生の朝日カルチャーセンター・チームの参加である。(実は、九州大学でも井上がこの大会を目標に「競技ディベート入門」という授業科目を開講したが、授業での論題が別のものになってしまい直接参加することはできなかった。ただし、授業の受講生を中心に結成した九州大学ディベート・クラブからは参加した。)

現在、JDAの大会が対象とする、政策論題を用いたチーム対抗ディベート(いわゆる「アカデミック・ディベート」)の大会は数が限られている。特に大学生・社会人が参加できる日本語の定期的な大会は少ない。地域的にも偏っている。JDAの大会は参加者の制限を設けないことで、高校生から社会人までが参加し、みんなの交流の機会にもなっている。JDAの九州大会はこのような状況の中で、大会機会の増加と地域的な広がりに大きく貢献するものである。この大会を定期的なものとして維持し、さらに他の地区でも同様の大会を開催していく努力をしたいものである。

(いのうえ ならひこ JDA九州支部長・九州大学教授)




第1回JDA九州ディベート大会の運営について

[吉村隆文]



 JDA九州支部発足以来最大の行事である「第1回JDA九州ディベート大会」が、2003年12月21日、九州大学六本松地区にて実施されました。
 大会結果は以下の通りです。

 A部門(立論2回)
出場チーム:修猷館高校α、踊る♪小倉ディベート共同戦線(小倉高校)、D-Net A(創価大学Debate Network)、D-Net B(創価大学Debate Network)、QDC A(九州大学ディベートクラブ)、クラブ林檎(NFKC)@WDD(早稲田ディベート&ディスカッション)(計6チーム)
優 勝:D-Net A(創価大学Debate Network)
準優勝:修猷館高校α
ベスト・ディベーター:新田真之介(修猷館高校)

B部門(立論1回)
出場チーム:修猷館高校β、鶴城(唐津東高校)、熊本高校、QDC B(九州大学ディベートクラブ)、筑紫女学園大学、朝日カルチャー(朝日カルチャーセンター)(計6チーム)
優 勝:修猷館高校β
準優勝:熊本高校
ベスト・ディベーター:財津瑛子(修猷館高校)

 試合内容は、両部門とも質の高いものでした。A部門では大学生チームに混じって、高校生チームが健闘しました。B部門では初心者の筑紫女学園チームと朝日カルチャーチームが、高校生チームに負けない活躍をしました。見学の方々も多く、盛況な大会となりました。

 今大会を実現するにあたって、「フォーマットをどうするか」が大きな問題でした。JDA本大会は立論2回に統一されていますし、実は7月に実施予定であったときは、フォーマットは立論2回だったのです。ところが、九州地区の実情を考えると、立論2回と立論1回のフォーマットを準備する必要があるだろうということになったのです。

 九州地区では、中学生や高校生の日本語ディベートが盛んですが、これは立論1回のフォーマットです。一般向けの講座や教室なども、基本的には立論1回のフォーマットで行われています。大学生の英語ディベートは立論2回ですが、そもそも大学生向けの日本語ディベート大会は九州にはありません。大学生の英語ディベーターが参加してくれるかどうかは未知数でした。また、ディベート啓蒙の点からも、立論1回のフォーマットが必要でした。一般の初心者の参加を促そうというのが、今回の目的の一つでもありました。今回初心者チームが2チーム参加したことは嬉しい限りでした。

 ただ、来年度については、参加資格の見直しやフォーマットの統一も必要かと、個人的には考えています。今回B部門に参加した高校生チームは「ディベート甲子園」などの大会への参加経験がありました。日程も含めて、論題やフォーマットなど、支部で検討していきたいと思っています。

 大会の運営には、JDA九州支部の皆さんに多大なご協力をいただきました。それぞれが仕事を持つ身ですので、なかなか集まる機会がありませんでしたが、皆さん貴重な時間を割いてご尽力いただきました。この場を借りて感謝いたします。細かい点で不手際などがあり、大会参加者には不便をかけた面があったと思います。一部参加者から不満も出ましたので、来年度に向けて問題点を再検討し、より素晴らしい大会を目指したいと思います。

 改めまして、第1回九州大会に参加いただいた方々、見学にみえられた方々、そして運営にご協力いただいた方々に深く感謝いたします。

(よしむら たかふみ JDA九州支部事務局)
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