日米交歓ディベートUSツアー(2008)[村上 明、田崎 友教]
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はじめに 2008年2月24日から3月21日まで日本ディベート協会と米国コミュニケーション学会の主催による日米交歓ディベートUSツアーに参加させて頂きました。ここにその詳細を報告させて頂きます。 論題 ディベートの論題は基本的には以下の三題の中からホスト校に選んで頂くという形でした。 ・ 死刑廃止 ・ 日本に大統領制を導入すべきである ・ オリンピックの意義 しかし実際に複数回選択されたのは死刑制度のみで、他は本年度のNDT/CEDAの論題である中東への和平政策など様々でした。後ほど詳述します。 日程 訪れた学校とその日程は以下の通りです(カッコ内は州)。 2月24日-26日:Rio Hondo College (California) 2月26日-28日:University of Southern California (California) 2月29日-3月2日:California State University, Northridge (California) 3月2日-4日:University of Nevada, Las Vegas (Nevada) 3月5日-6日:Emporia State University (Kansas) 3月6日-8日:Samford University (Alabama) 3月9日-11日:Highland Park High School (Texas) 3月12日:Grapevine High School (Texas) 3月13日-16日:James Madison University (Virginia) 3月17日-18日:University of Texas, Tyler (Texas) ディベートの詳細 各ディベートの詳細を報告します。勝敗を決めることはほとんどなく、あくまでオーディエンスに向けたディベートの宣伝、といった感じでした。またその目的に伴い、全てのラウンドでイシューの擦り合わせ(場合によってはコンストの練習も)を事前に行い、ラウンド後にはオーディエンスからの質問を受け付けたところも多くありました。 Round 1 日時:2月25日13時〜 スタイル:public debate(エビデンスの使用なし) 論題:US military bases outside of the US national
boundaries should be banned. フォーマット:コンスト7分リバ4分の2コン1リバ方式。ブロックあり。QAなし。 AFF:Rio Hondo Collegeチーム NEG:日本チーム 聴衆:コミュニケーションや英語の授業の学生を中心に40-50名。授業の一環として来ていた模様。 Round 2 日時:同日19時〜 スタイル・論題・フォーマット:同上 AFF:日本チーム NEG:Rio Hondo Collegeチーム 聴衆:40名弱。やはりRio Hondo Collegeの学生が中心。 日時:2月28日14時〜 スタイル:public debate(相手側は一部エビデンスを使用していたが、基本的にはエビデンスの使用はなし) 論題:Countries should boycott the 2008 Olympics. フォーマット:1AC&1NCが6分、2AC&2NCが5分、リバが4分一度ずつ。ブロックあり。QAあり。 AFF:University of Southern Californiaチーム NEG:日本チーム 聴衆:スクアッドのメンバーを中心に10人弱+インターネット中継 日時:2月29日15時半〜 スタイル:public debate(エビデンスの使用なし) 論題:Debate should be a required part of education
in the United States. フォーマット:コンスト10分、リバ5分の2コン1リバ方式。ブロックあり。QAあり。 AFF:日本チーム NEG:California State University, Northridgeチーム 聴衆:extra-credit目当ての学生等で60人弱。学生が大半で、一部保護者や教職員。 Round 1 日時:3月3日14時半〜 スタイル:public debate(エビデンスの使用あり) 論題:死刑廃止 フォーマット:コンストが7分、リバが5分の2コン2リバ方式。ブロックあり。QAあり。 AFF:University of Nevada, Las Vegasチーム NEG:日本チーム 聴衆:8人前後。スクアッドのメンバーと教職員 Round 2 日時:3月4日15時半〜 スタイル:ほぼpolicy debate(エビデンスベース) 論題:The United States Federal Government should
increase its constructive engagement with
the government of Iran. フォーマット:コンストが7分、リバが5分の2コン2リバ方式。ブロックあり。QAあり。 AFF:日本チーム NEG:University of Nevada, Las Vegasチーム 聴衆:30人前後 日時:3月5日19時〜 スタイル:パーラメンタリーディベート(エビデンスの使用なし) 論題:死刑廃止 フォーマット:コンスト6分、リバ4分の2コン2リバ方式。ブロックあり。QAあり。 AFF:Emporia State Universityチーム NEG:日本チーム 聴衆:20人強。授業関係の学生。 日時:3月6日19時〜 スタイル:public debate (エビデンスの使用あり) 論題:死刑廃止 フォーマット:コンスト7分、リバ5分の2コン2リバ方式。ブロックあり。QAあり。 AFF:日本チーム NEG:Samford Universityチーム 聴衆:70人前後。授業関係、特にextra-credit目当ての学生が中心。 日時:3月11日19時〜 スタイル:ポリシーに少し寄ったパーラメンタリーディベート(エビデンスあり) 論題:死刑廃止 フォーマット:コンスト5分、リバ3分の2コン1リバ方式。ブロックなし。QAあり。 AFF:日米混合チーム NEG:日米混合チーム 聴衆:20人前後。高校生とその父兄 時間:3月12日19時〜 スタイル:public debate(エビデンスあり) 論題:死刑制度 フォーマット:コンスト6分、リバ3分の2コン2リバ方式。ブロックあり。QAあり。 AFF:日米混合チーム NEG:日米混合チーム 聴衆:150人弱。高校生や父兄やその地域の住民。 時間:3月18日19時〜 スタイル:public debate(エビデンスあり) 論題:死刑制度 フォーマット:コンスト6分、リバ4分の2コン1リバ方式。ブロックありの予定が本番で1Aスピーカーのミスによりなくなった。コンスト後に20分間のオーディエンススピーチあり。 AFF:University of Texas, Tylerチーム NEG:日本チーム 聴衆:70人前後 ディベートを取り巻く環境の感想 ツアー中に頻繁に感じたのはディベートを取り巻く日米環境の差異でした。過去のレポートと重なるところも多いですが、以下にスクアッドレベルと文化レベルの二種類に分けて記します。 スクアッドとして 過去のレポートにもありますが、やはりコーチの存在は大きいようです。スクアッド員が少ない場合はリサーチをしたり、遠征時の飛行機のチケットを取ったりするのもコーチの役割だそうです。コーチの人数は様々で、1-2人のスクアッド(例えばUniversity of Texas, Tyler)から、多いところでは10人以上(例えばUniversity of Southern California)いるようです。また大学教員がコーチを兼ねている場合、それにより勤務時間が削減されたりもするようです。Emporia State Universityのコーチはスクアッドの半分程度のリサーチを受け持っており、且つ遠征時のホテルや飛行機の手配もしている代わりに、午前中から大学に行かなければならないのは週に二日のみだそうです。 次に顕著なのはディベート活動に奨学金が付くことでしょう。程度の差こそあれ、ディベートにより奨学金をもらっているディベーターには多く出会いました。例えばCalifornia State University, Northridgeのコーチは高校からディベートをしていたため、University of Southern Californiaに入学した際は授業料を免除されたそうです。 それと関連して、大会の参加費、宿泊費、交通費などは全て大学持ちであることも差異の一つでしょう。日本ではその全てをディベーターが支払わなければならないと伝えると皆一様に驚いていました。 また米国では各大学にスクアッドルームというスクアッド専用の部屋があり、その設備はスクアッドにより様々ですが、例えばUniversity of Southern Californiaですとパソコンが10台ほど設置されている大きな部屋+コーチ専用の部屋が3部屋ほどありました。そこに行けばリサーチができ、しかも他のスクアッド員と交流できる、格好のたまり場となっているようです。 以上のように総じて米国のスクアッドは大学側からのサポートに恵まれていると言えるでしょう。しかしスクアッドの規模は日本とそれほどは変わらず、今回訪れた中でも5人程度というところもありました。全米最大規模のスクアッドはEmory大学やGeorgia大学で、スクアッド員が40名前後とのことです。 文化として 米国社会にはディベートが文化的に根付いているように感じました。例えばGrapevine High Schoolでは$7の入場料を取っていたにも関わらず、150人のオーディエンスが集まりました(多分にディベートプログラムへの寄付の意味も含まれていたようでしたが)。Grapevineの学生も多くいましたが、中には地域の人々等もおり、ディベートへの関心の高さを表していると思います。 またUniversity of Nevada, Las Vegasでは、一度滅びたスクアッドが、巨額の寄付により昨年復活したそうです。このようにディベートプログラムへの寄付もあるようで、Highland Park High Schoolでもブースターズクラブというところが高校のディベート活動を金銭的に支えているようです。 米国でのディベート文化を示す他の例としてはJames Madison Cupが挙げられます。これはJames Madison Universityが毎年開催しているディベート大会で、実は私達はこの大会に出場する予定だったのですが、日程調整にミスがあったようで、決勝戦を見学するのみとなってしまいました。形式はlong table debateと呼ばれるスタイルで、2人1チーム+肯定側/否定側共に3チームずつ、つまり6人対6人のディベートです。ジャッジはサイドではなくチームにvoteします。優勝チームには$5000、二位には$2500、三位には$1500ドル、四-六位には$500が賞与されます。決勝戦には200名程度のオーディエンスがおり、ディベート後にオーディエンスからの質問もできました。このような大会を大学が開くことができ、そこに人が集まるのも、ディベートが文化に根付いているからでしょう。 米国のポリシーディベート 米国でのポリシーディベートの様子を紹介します。ツアーを通してディベーターやコーチから聞いた話にADAを観戦(後述)して気づいたことを加えたものです。 まず、米国でもやはりポリシーディベートからパーラメンタリーディベートへのシフトはあるようで、今ではパーラメンタリーディベートの競技者の方が多いであろうとのことです。著名な大学ではHarvardはポリシーディベートを行っていますが、Yaleはパーラのみです。このシフトはスピーチ速度が速すぎるポリシーディベートへのアンチテーゼとして始まったそうですが、今ではそのパーラも速くなってきているそうです。勝つディベートと望ましいディベートが必ずしも一致しないのは日本と同様のようです。一方でポリシーディベート界では速いスピーチに対抗して5年ほど前から歌や衣装など、表現に重点が置かれるディベートが出てきているそうです。 ポリシーディベート内の個別のイシューとしては、予想していたよりも純粋なネットの議論は少なかった印象です。実際に見たラウンドでもtopicalityやcounterplanのconditionality、extra-topicalityなどが争点となったラウンドがいくつかありましたし、2NCからcounterplanを出すのはunfairだという議論にvoteが入ったラウンドも観戦しました。ディベーターに尋ねたところ、やはりオフケースをspreadすることが多く、特にtopicalityやcounterplanはほぼ毎ラウンド出ているそうです。今回のNDT/CEDA論題(本稿末)の下では、constructive engagementがconditionalなもの(支援の引き換えに何かをもらうもの(quid pro quo))でなければいけないのか、unconditionalなものでなければいけないのか、というtopicalityが流行しているようでした。日本と同様辞書等から定義を引っ張ってきたりもするのですが、違いとしてはstandardが主にgroundやlimitationであることが挙げられます。 またkritikもある程度流行しているようで、91-92のシーズンでUniversity of Texas, Austinのディベーター(今はUniversity of Southern Californiaの教員だそうです)が回してから、それまであったcounterwarrantの地位を取って代わったそうです。 University of Southern Californiaでマテリアルを見せてもらう機会に恵まれたのですが、どのイシューもかなりの量がありました。topicalityとcounterplanのマテをもらったのですが、どちらも数十ページの厚さで、最初にはメニューのようなものが付いています。ディベーターによっては一人で一シーズンに300枚程度エビデンスをとる、というのも納得できます。ただ一つのtub(NDTでマテを入れて運んでいる箱)の中には、見かけほどはマテが入っていないという印象です。 ADAで実際にラウンドを見ると、やはりその速さが目立ちます。constructive speechesはひたすらエビデンスを読み続けるので特に速く、相当の訓練を積まない限り日本人ディベーターが聞き取ることは困難だと思われます。ただ読んでいるエビデンスの枚数は日本と変わらず(9分間で20枚前後)、むしろ一枚一枚のエビデンスが日本の数倍長いようです(過去には9分間で82枚エビデンスを読んだツワモノもいるとのことですがあくまで例外のようです)。 ラウンド中のその他の顕著な差異としては、以下の四点が挙げられます。まずディベーターもジャッジもフローをあまりとっていないことです。エビデンスの中身まではほとんど書いていないようです。二点目は読み終わったエビデンスをスピーチ中に相手が即座に見ていることです。相手がスピーチしている途中に相手が読んだエビデンスを見ながらパートナーと相談している姿も見受けられました。三点目はQAの方式です。基本的には一対一のQAなのですが、時々スピーカーのパートナーが答えたりもしていました。さらにQAはQAタイム中に限らず、プレパタイム中にも相手に質問しているパンツも多く見られました。最後はプレパタイムに若干ルーズなことです。基本的にはスピーチの準備ができたことを意思表示した瞬間にタイマーが止められますし、プレパタイムを止めてトイレに駆け込んでいたディベーターもいました。 ラウンド外の他の差異として、米国のポリシーディベート界では各チームのイシューをオープンにする傾向があることが挙げられます。上記QAの件もその傾向の一部と見なすことができますし、http://caldebate.wikispaces.comではいわゆるパッチが公開されています。wikiですので誰でも編集が可能で、対戦した相手が入れる場合もあるし、自分で自分のイシューを書き込むこともあるそうです。話が噛み合う方が良いディベート、目指すべきディベートであるというコンセンサスがあるからでしょうか。 日本で言うJDA-MLやChief-MLの働きをなすのが、http://www.ndtceda.comから登録できるeDebateというメーリングリストです。上記サイトで過去ログも見ることができます。後述するADAでは大会の予選結果を流していましたし、大きな大会になるとラウンド毎に対戦やその結果が流れるようです。ディベートに関する議論も活発で、2008年3月下旬現在はラウンド中にパイを投げつける(!)ことがディベートに含まれるのか否かが議論されています。 大会運営について James Madison UniversityではADA (American Debate Association)の大会を見学しました。本大会はNDTやCEDAほど大きな大会ではないものの、地域レベルの大会というほど小さくもない中規模の大会だそうです。ただこれはホスト校の方がおっしゃっていたことで、Samford大学の方はNDT/CEDAに次ぐ第三の大会と位置づけられていました。参加校は基本的に東海岸の大学とのことです。以下、大会運営という面から日米間の相違点を記します。 まずどの大会もそうですが、大会を実際に運営するのはホスト校のコーチや学生です。大会の運営は大変な労力を要する上、赤字になることが多いそうです。しかしホスト校は大会を運営することを名誉だと考え、開催に踏み切るとのことです。 米国のディベートの大会は三レベルに分かれていて、上から順にopen (varsity), junior varsity (JV), noviceとなっています。全レベルが同時進行で行われます。大会によっては一レベルのみの大会等もあるようです。レベルの差異はディベートの経験年数や過去の戦績で、出場要綱に細かく定められています。各大会のルールが最も異なるのも、現在ではその要件だそうです(過去には出せる議論等にも差異があったようです)。 また米国ではジャッジやオーディエンスも参加費を支払うようです。ADAではパンツ・ジャッジ・コーチが一人当たり$40、オーディエンスが一人当たり$50の参加費でした。因みにNDTはオーディエンスが$75のようです。ADAではどうかわかりませんが、NDTでオーディエンスに課金し始めたのは、主にいわゆるパッチ隊を防ぐことが目的だそうです。少なくとも課金することで、パッチ隊を出しやすい大学(=ホスト校)に対する溜飲を下げられるとのことです。 各スクアッドからの参加パンツ数に上限はなく、何パンツ出場しても構わないようです。今回のADAのopenレベルではWayne State大学が4パンツ、Emory大学が3パンツ出場していました。その代わり、各スクアッドは出場パンツ数÷2のジャッジを出さないといけません。 ジャッジはmutual preferenceというシステムを用いて配置されます。これは各パンツが予め全ジャッジをA〜Cの三段階にランク付けし、ラウンドには双方のパンツが同ランクにランク付けしたジャッジしか入らない、というものです(大会により微妙にシステムが異なるのかもしれません)。ただ少なくともADAではmutual preferenceはR1とR2には適用されないようです。ランク付けは大会前日までに、http://www.debateresults.com/というサイトを通して各パンツが行います。同サイトでは各種大会の結果(予選の当たりやそのディシジョン、ジャッジを含む)やチームのシーズンを通しての結果、各ジャッジが当該シーズンでどの大会のどのラウンドをジャッジし、どのようなディシジョンを下しているか、などの細かな情報が全て公開されています。ジャッジングフィロソフィーも各ジャッジがこのサイトにアップロードし、そこから閲覧可能です。 対戦を組み、ジャッジを配置するソフトは二種類あるそうなのですが、ADAではよりユーザーフレンドリーであるという理由でRich Edwards氏が作成したTRPC(Tab Room on the PC)というソフト(http://www3.baylor.edu/~Richard_Edwards/TRPC.htmlから無料でダウンロードできます)を用いていました。因みにtab (tabulationの略) roomは日本で言うGHQのことのようです。 米国のディベート大会では日本で言うopening roomはないようです。対戦表はレベル別にペーパーにて配布されます。各パンツが設置されているテーブルまで対戦表を取りに来るという形です。因みに同じテーブルでラウンド後はバロットを回収していました。 予選の対戦はR1とR2、大会によってはR3まではランダムに、それ以降は基本的にはいわゆるhigh-lowで組まれるそうです。high-highで組む場合もあるようですが、それをするのであればR3で行われるとのことでした。 本選(いわゆる「山」。英語ではelimination tournamentと言います)へはADAでは参加パンツの上位半数が進出できるようです。今回は例えばopenレベルですと13大学22パンツの出場でしたので、上位11チームが本選へ進出していました。自動的に上位5チームはoct-finalがシードとなります。上位半数というのはADAのみで、他は例えば参加パンツが70パンツをこえていればベスト32から、そうでなければベスト16から、などだそうです。本稿執筆時に行われていたCEDAでは183パンツが参加し、8ラウンドの予選後に上位70パンツが本選へと駒を進めたようです。 どの大会でもいわゆるoral critique方式(ラウンドの直後にジャッジが勝敗とその理由を述べ、ディベーターからの質問を受け付ける)を採用していて、それは本選でも例外ではないようです。複数ジャッジになるとそれだけでかなりの時間がかかってしまい、時にはラウンド以上にoral critiqueが続くこともあるようです。その分バロットは簡潔で、ディシジョンの理由を記すための場所はレターサイズ(A4程度の大きさ)に2/3ほどのスペースが用意されているだけです。ジャッジはバロットをラウンドルームで書き上げます。 バロットについてもう少し述べますと、バロットはレターサイズの紙が一枚で、予めジャッジ名とチーム名、ディベーター名が書かれているものを各ラウンド前に印刷しています。ジャッジがバロットに書き込むのは「ランク」「ポイント」「勝敗」「reason for decision」のみです。「ランク」とは、スピーカー4名をラウンド内で上位からランク付けしたものです。「ポイント」は日本のように分析的採点法(ディベート力をanalysis、reasoningなどの項目に分け、その項目の点数を合計する採点法)ではなく、総合的採点法(総合評価として一人のディベーターにラウンドを通して一つの点数が与えられるのみ)が採用されています。各ディベーターを1-30点の間で評価するのですが、大体は25-30の間のようです。 予選を突破したパンツの発表は掲示にて行われます。ADAでは大会会場の他に、ディベーターが宿泊しているホテル二箇所にも貼り出されていました。同時に前述したeDebateのMLにも報告されます。ただその際、日本とは違い点数は公開されないので、厳密な当たりは当日までわからないようです。 ADAでは予選後に、coach partyというのがありました。これは各スクアッドのコーチが集まり親睦を深めるもので、アルコールも出ます。費用は参加費から捻出されているようで、$1000程度とのことでした。これほど規模の大きいcoach partyは珍しいようですが、サイズの大小はあれどの大会でもコーチが集まるミーティングのようなものはあるようです。 表彰式は予選後に行われるのが一般的なようです。ADAでは最終日の昼に、大学内とは思えないような高級ホテル級のレストランで、全ディベーター・コーチがブランチを採りながら表彰式が行われました。ADAで表彰対象となるのは全レベルの個人1-10位(因みに06年日本ツアー米国代表ディベーターのNickがopenレベルで2位を獲得していました)、午前中に行われたoct-finalで敗れたパンツ、Julia Burke賞(コミュニティーの中で最もlovedでrespectされているディベーターに送られる賞)、コーチに対する表彰がありました。他の大会ではジャッジに対する表彰や、日本で言うNAFA褒章のようにスクアッドに対する表彰(sweepstakesと言うようです)がある場合もあるそうです。個人プライズは予選で負けてしまっても入賞できるとのことでした。 表彰式の後に本選のラウンドが続きます。ADAではoct-finalからfinal roundまでジャッジは3人でしたが、これは大会によって異なるようです。また大きな大会だと本選のラウンド数が多いので、決勝戦が夜12時から、というようなこともあるそうです。因みにADAはNickの属するEmory MS(米国のチーム名は大学名の後にパンツのラストネームの最初の文字が続きます)が予選を通して一度も敗れることなく優勝しました。 論題策定について 米国の論題策定について話を聞く機会もありましたので、そのプロセスを記録として記します。参考までに本年度のNDT/CEDA論題を本稿末に載せてあります。まず論題策定を行っているのは、NDTの組織下のコミッティーだそうです(と聞いたのですが、CEDAの組織化のコミッティーの誤りではないでしょうか)。コミはコーチにより構成されていて、投票する権利を持つのも各スクアッドのコーチだそうです。その際にはスクアッド員の意見を聞くこともあるそうです。論題を提案する権利を持つのもコーチで、これもスクアッド員の意見を聞くことがあるとのこと。実際に今回のNDT/CEDA論題は学生が書いた200ページの提案書が元になっているとのことでした。 投票はエリアとワーディングの二段階にわけて行われます。例えば今回のNDT/CEDA論題だとエリアの段階では「中東への和平政策」程度しか決まっておらず、具体的な国名を入れるか否か、入れるとすればどの国か、等はワーディングの段階で決まるそうです。http://www.cedatopic.com/においてより具体的なプロセス等が公開されています。投票の際は100強ある各スクアッドのコーチが候補群(エリア・ワーディング共に3-5候補挙げられるようです)にランク付けを行い、何らかの数式を用いて各論題候補の票数が計算されるようです。スクアッドにコーチが複数人いても、投票できるのは一票だそうです。 エリア・ワーディング共に投票期間は各2-3週間程度で、米国論題委員会が動き出してから論題が決まるまで、2-3カ月かかるとのことです。基本的には論題に関する議論はインターネット上で行われるようですが、途中でコミが実際に会ってミーティングもするそうです。その際は5日間ほど連続でホテルで会合を開くそうです。その会合は基本的にはコーチが中心だそうですが、一応オープンにされているとのことです。 シーズン中のフォローアップ研究は、前述したhttp://www.debateresults.comでAFF/NEGの勝率等を調べることにより可能だそうです。因みに今期はNEGの勝率が52%、AFFの勝率が48%と拮抗しているようです。 日本同様、ワーディング策定の際はtopicalityの余地が極力少なくなるように努めるそうです。昨今のNDT/CEDA論題に具体的な条約名や国名が入っているのは、そうすることにより解釈の余地が狭まると考えられているからだそうです。 米国の論題で国名や条約がリストされていて、AFFのオプションがかなり広くなっているのは、どうしてもAFFが勝てないという状況を避けるためだそうです。NEGの方がstrategyの選択肢が多く、何とかなるであろうと考えられているとのことです。一方でやはりジェネリック系の議論も頻出しているそうですが、ここで言うジェネリックはリスト中のどの国や条約にも当てはまる議論、という意味で、どの論題にも当てはまる議論、という意味ではないのかもしれません。 高校ディベートについて テキサス州ダラス近郊にて二校高校を訪れました。その際に高校ディベートの事情も聞く機会がありましたので、その時に聞いたことを記します。まず高校ではポリシーディベート(cross-examinationディベート)に加え、リンカーンダグラスディベートやCongressディベートも行われているようです。米国全体では60-80校がコンスタントに全国レベルの大会に出場していて、全国レベルの大会で最も有名なのがUniversity of Kentuckyが主催しているTOC(Tournament of Championships)という大会だそうです。これは招待制の大会で、他の大会で2 bids (○○の大会の準決勝まで行けば1 bid等定められている)を獲得したチームが招待されるようです。TOC以外にも全国レベルの大会はあるそうですが、エビデンスの使用に制限があったりするため、大学でディベート活動に従事している元高校生ディベーターはTOC出身者が多いそうです。 ディベート以外の事項 最後にディベート関係以外で印象に残ったことなどを記したいと思います。まずは何と言ってもアルコールを飲む頻度です。高校を訪れた時は一切口にしませんでしたが、最初の頃はほぼ毎日飲んでおり、それもウォッカやテキーラなど日本の大学生はほとんど飲まないであろう強めのものが多かったです。米国に滞在した25日中14日間は何らかのアルコールを口にしました。ツアーの選考時に「飲むことは好きか」と尋ねられた意味を身をもって知りました。 計11箇所の宿泊地中、10箇所はホテルでした。その内9箇所では持参のノートパソコンを用いて無料でインターネットに接続が可能で(もう一箇所も$11.99/日で可能)、ツアー中も他のホスト校等との連絡は問題なく行えました。次回以降も可能であればノートパソコンを持って行くことをお薦めします。 宿泊場所がホテルではなかったのはテキサスのHighland Park High School滞在時で、ディベーターの家の敷地内にあるゲストハウスに宿泊させて頂きました。ダラス近郊では裕福な地域のようで、宿泊させて頂いた家を含め、周囲は豪邸ばかりでした。ダラスでは移民の影響により都市部の教育レベルが下がっており、子供により良い教育を望む場合はダラス中心部ではなく、その近郊に住居を構えるようです。 University of Texas, Tylerでは異文化交流の授業に出席する機会に恵まれました。私達が訪れるということで特別授業にしてくださり、基本的には授業出席者から私達へのQAという形で授業が進んで行きました。質問のほとんどが日本人の気質に関することで、例えば以下のようなことを答えました。 ・ 日本人の方が家族の話題を出さない傾向にある。日本の方がプライベートと社会の線引きをはっきりとするからではないか。 ・ 日本の方が大学での教員との距離がある。大学の先生の家族と食事に行くというようなことはまずない。 ・ よく言われることだが、日本人学生は手を挙げて質問することはあまりない。質問をするのであれば授業後に個人的に行う。 ・ 日本人はアメリカ人と比較すると沈黙に耐えられる。日本と違いアメリカは様々な文化的背景を持つ人が集まるので「空気を読む」ことが難しく、結果的に言葉で表すことが多い文化となったのではないか。 同じくテキサス州にて、Dallas Mavericks対New York NicksのNBAゲームを観戦する機会がありました。ハーフタイムに少年チームのミニゲームがあったりと、日本の一般的なプロスポーツよりも大分ショーの要素が強い印象を持ちました。 日本の最も有名な現代文化は「Manga」と「Anime」です。日本の首相を答えられるアメリカ人にはついぞ会いませんでしたが、ドラゴンボールやDeath Note、更にはNarutoやD. Gray-manに至るまで日本のマンガ・アニメ文化は熟知されていました。書店に行ってもMangaというセクションにあるのは日本のものがほとんどで、アメリカ産のマンガを探すのが難しいくらいでした。 facebookというSNSがあります。これは海外版mixiのようなものなのですが、ツアー終了後も仲良くなったディベーターとはこれを通して交流が続いていますし、有益であると思います。今後ツアーに参加される方は是非登録してから行くことをお薦めします。 当たり前かもしれませんが、米国の大学のキャンパスは広かったです。California State University, Northridgeは周囲4マイル(6.4km強)だそうですし、James Madison Universityに至ってはキャンパス内に信号がありました。James Madison Universityでは建物の数も100前後あるそうです。またこれは大学に拠るのかもしれませんが、専攻数も多く、University of Southern Californiaでは7つの学部と100前後の学科があるそうです。大学院に関しては日本とは違い、文系よりも理系の方が倍率が低いそうです。米国では人文系の大学院も大分人気があるようです。 驚いたことの一つに、LAの家賃の高さがあります。他の都市ではわかりませんが、LAで部屋を借りる家賃は$1400/月程度だそうです。これがアメリカ人大学生はルームシェア率が高い理由でしょうか。ツアー中に訪れた大学生の家は皆ルームシェアをしていました。 細かいところでは教科書の値段も日本とは大きく異なるようでした。米国の大学の教科書はカラフルで分厚くてハードカバーで写真が付いていたりし、概ね$40−$100とのことです。日本では大体$40以下だと言うと驚いていました。 最後に 末筆になりましたが、JDAの綾部理事には選考前から非常にお世話になりました。この場を借りて感謝を申し上げます。また矢野会長、Fr. Howell、鈴木雅子理事には選考時・出発前のオリエンテーションで貴重なアドバイスを頂きました。ありがとうございました。さらに行く先々でホスト校の方々から予想をこえる温かいおもてなしを受けました。この報告書を読むことはないでしょうが、彼等にも深く感謝しています。一生の思い出となるであろう素晴らしいツアーをありがとうございました。上記の方々に厚くお礼を申し上げます。 *今期のNDT/CEDA論題 Resolved: that the United States Federal
Government should increase its constructive
engagement with the government of one or
more of: Afghanistan, Iran, Lebanon, the
Palestinian Authority, and Syria, and it
should include offering them a security guarantee(s)
and/or a substantial increase in foreign
assistance. (むらかみ あきら)上智大学卒。現東京外国語大学大学院生 (たさき とものり)北九州市立大学4年生 | ||
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