1998年度日米交歓ディベート報告

 US EXCHANGE DEBATEに参加して

 

慶応大学法学部4年 林田佳子

東京大学教養学部4年 小笠原由佳


はじめに

 

2月16日から3月26日の日程で、米国スピーチ・コミュニケーション学会と日本ディベート協会共催による1998年日米交歓ディベートツアーが行われました。全行程は6週間、西海岸から東海岸まで全米20校をまわり、各校でディベートその他の行事に参加をして来ました。このツアーに参加するというすばらしい機会を提供してくださった日本ディベート協会へ感謝とお礼を兼ね、このツアーでの体験と感想を、簡単ではありますが、ここに報告したいと思います。

 

1 Resolution

このツアーでは、4つのResolutionが提案されており、各ホスト校がそれぞれ好きなトピックを選んでディベートを行いました。以下の4つが選ばれたResolutionです。(括弧内はディベートを行った回数・サイド。基本的に向こうのホスト校が、サイドやチームの組方を決定。)

 

Resolved: That this House believes that the Japan-US securityagreement should be terminated.

(Aff 7回、Neg 2回、split 1回)

Resolved: That this House would abolish the deathpenalty.(Neg 3回)

Resolved: That this House believes that fish should be cookedbefore eaten.(Aff 1回、Neg 1回、split 2回)

Resolved: That this House believes that the past should beforgotten.

(Neg 2回、split 2回)

 

2.スケジュール 

カリフォルニア州から始まり、中西部、テキサス、そして、もう一度西海岸へと戻り、オレゴン州から東海岸へと進み、ヴァージニア州でツアーを終えるという日程でした。詳細は以下のようになっています。

 

1. Univ. of Southern California (2/16 - 2/17)

2. California State Univ. at Los Angeles (2/17-2/18)

3. California State Univ. at Long Beach (2/18 - 2/22)

4. San Diego State University (2/22 - 2/24)

5. California State University at Fresno (2/24 - 2/25)

6. Southeast Missouri State Univ, at Cape Giraredeau (2/26 - 2/28)

7. Illinois College in Jacksonville, IL (2/28 - 3/2)

8. Univ. of Missouri St. Louis (3/2 - 3/3)

9. Webster Univ. in St. Louis (3/4 )

10. St. Mary's College in San Antonio, TX (3/4 - 3/7)

St. Mary's College 主催によるPublic DebateTournamentに参加。リンカーン・ダグラスディベートを体験

11. Northwestern University in Evanston, IL (3/7 - 3/9)

National Novice Debate Tournamentを見学

12. Augustana College in Rock Island, IL (3/9 - 3/11)

13. Portland Community College in Portland, Oregon (3/11 - 3/15)

14. University of Wyoming in Laramie (3/15 - 3/16)

15. St. Joseph's College in Rensealler, IN (3/ 17 - 3/18)

16. Butler University in Indianapolis (3/18 - 3/19)

17. Emerson College in Boston, MA (3/19 - 3/20)

18. University of Rochester, NY (3/ 20 - 3/ 23)

Cross Examination Debate Association National Tournament1998を見学

19. Mercer University, Macon, GA (3/23 - 2/25)

20. The University of Richmond, VA (3/25 - 3/27).

 

3.ツアーに参加しての感想

 

アメリカではいつもやっているようなトーナメントディベートではなく、パーラに近い形のAudienceDebateを行いました。エビデンスはほとんど使わないので、例を挙げることの重要性や、デリバリーの重要性などを実感しました。NDT・CEDAディベーターやパーラメンタリーディベートやスピーチをやっているディベーターの両方と、ディベートする機会があったのですが、そのスタイルの違いは歴然としていました。スピーチ・パーラーの人は、自分の議論の描写や説明がとても上手く、また、身近な例を挙げて観客を引き込むようなスピーチをしていました。ただ、相手の議論へのレスポンスやロジックという点では、やはりNDT・CEDAディベーターのほうが断然上だという印象を受けました。

 

ただ、AudienceDebate の場合、観客はフローを取っていない場合が多く、相手へのレスポンスが多少弱くても、自分の話を表現豊かに説明できた方が観客を説得できるという側面があります。NDTスタイルのディベートの弊害はエビデンスに頼ってしまい、自分の言葉でシナリオや理由を説明できないことにあるような気がします。NDTスタイルの大会でも、結局はシナリオが明確になっているところや、理由がしっかりしている所が勝っていたと思うので、自分がいかにargumentを理解しているかをチェックするためにも、自分たちがまわすargumentをエビデンス無しで自分の言葉だけで試合をしてみるという練習は面白いのではないかと思いました。

 

また、テキサスのSt.Mary's CollegeでPublic Debateのトーナメントに飛び入り参加した(させられた)のですが、このトーナメントは、全くの素人が気軽にディベートを体験し、楽しむことが目的とされて企画・運営されたものでした。一対一のディベートで、トピックは30分前に決められ、Aff-Neg-Aff-Neg-Affと、Affが3回、Negが二回のスピーチをし、もちろんエビデンスは使いません。最初は、英語力とアメリカに関する知識不足といった点で、このようなディベートが出来るか心配だったのですが、"TheUN should be restructured", "Education will set youfree"と言ったような普遍的なトピックでしたので、楽しんでディベートでき、また、二人とも一勝することが出来ました。このようなディベート大会を日本でも開くことで、ディベート人口が広がり、理解が深まるのではないかと思います。

 

トーナメントは、NDT Novice(1年生用トーナメント)と、CEDANATIONALを見てきました。彼らのスピーチはとても速いです。日本の比ではないです。何がすごいかといえば、エビデンスだけでなく、クレームも速かったです。エビデンスとクレームの間に間などなく、すべて同じスピードで読みます。最初は本当にフローが取れず、はじめて(日本で)ディベートを見た時の様な衝撃でした。でも、これは決して真似をすると良いと言っているわけではなく、むしろ、日本の方が健全ではないかと思いました。アメリカ人でも一般の人は恐らく聞き取れないだろうと思います。

 

クレームはどちらかと言うと長めで、普通の英語を使っています。これも、あまり良くないと思いました。ディベート自体もあまり内容を把握できるほど聞き取れなかったのですが、「evidenceがいっているかどうか」というのがかなり重点が置かれている様な気がしたし、cardattackもあまり練られていないような印象を受けました。

 

あと、critiqueという議論がとてもはやっていました。どういうものかというと、「AFFのcaseの考え方はフェミニズム的な考え方にもとづいている。AFFにvoteするのはこのような考え方を押しすすめることになるからいけない」というように、そのケースの成り立ちとなっている考え方、システム自体(資本主義・父権主義[Patriarchy]・フェミニズムなど)を否定し、caseが立っているかどうかに関わらず、そのようなシステムを提唱するAffにvoterにしてはいけないというものです。日本に導入しようかな、と向こうのディベーターに言ったら、「そんなことをすると嫌われるよ」と言われてしまいました。

 

アメリカの今年のトピックは東南アジアへのsecurityassistanceで、日本の命題に比べ広いです。Affのケースは、カンボジアへの地雷撤去部隊の派遣や、インドネシアへの援助(軍事演習や食糧援助など)などさまざまなものがありました。従ってNEGはgenericDA, CP, critiqueばかりのようでした。CPではJAPANCPというのはどこでも持っているgenericCPだそうで、アメリカの代りに日本がやる、というものだそうです。日本がやった方が中国を刺激しないのだそうです。このCPのおかげで結構日本の外交政策に関するリサーチもしてあるようで、アメリカでは日米安保のトピックを私たちとのディベートに選ぶ所が多かったです。

 

アメリカは広いので、大会に参加する学校はすべて、大会校のそばのホテルに泊まっています。ホスト校がホテルをとり、そのホテルはディベーターだらけです。学校によっても違うとは思いますが、ホテルは毎晩パーティーですごい盛り上がりです。これも随分違います。また、ラウンドの直後に、ジャッジがその場で勝敗とコメントを言います。このシステムは面白いと思います。その場で結果とその理由が分かるので試合を忘れないうちに改善できるし、すぐ後のラウンドにも生かせるので良いシステムです。その場で3リバもできるので、ジャッジもいいかげんなことを言えないのでよいのではないでしょうか。予選の数を1試合くらい減らしても良いからこのシステムを導入すると良いと思いました。

 

ディベート以外には観光をしたり、授業に参加したりしました。授業はだいたいが比較文化系の授業で、日本の文化などに関して質問を受ける形式でした。私たちが、二人とも日本人女性かつディベーターであり、アメリカ人の「日本女性」というステレオタイプと違うので、その点でかなり興味を引いたようです。ディベート界にはどのくらい女性がいるのか、日本での女性の役割の変化は、などという質問も受けました。

 

観光では面白いところではラスベガス(カジノ!)や、テキサスとメキシコの国境の街に行きました。車でメキシコに入国したのですが、bordercontrolがとても甘くて驚きました。メキシコからアメリカに帰る時、“UScitizens?”と聞かれるですが、それで“yes”といえば、それで終わりです。私たちもパスポートを見せただけで簡単に通れました。テキサスはメキシコ人がとても多く「違法なんだけど、両方の国籍を持っている」と言う人もいました。メキシコ人でもお金持ちの方はアメリカの方が教育システムが良いからと言うことで、国境地帯のお金持ちは、みな子弟をアメリカの学校に通わせているようです。

 

そういう子の一人で、小学校からずっとアメリカでスペイン語より英語の方がしゃべれるというメキシコ人の女の子にも会いました。彼女はセーラームーンが大好きだそうで、セーラームーングッズを大量に部屋に持っていました。カードからCD,カレンダー、本まで日本からの輸入品もいっぱい持っており、そのために日本に興味を持っているようでした。日本のア二メの威力はすごいですね。ちなみに彼女は16歳、高校生です。

 

6週間に20校という超ハードスケジュール(2.1日に1校!)でしたが、二人とも大きな病気もせず、よく食べ、よく飲み、時間のある限り寝る、という生活をしてきました。いく先々で歓待され、一生に一度という本当に楽しい思いをさせて頂きました。この場借りて日米交歓ディベート委員会委員長の矢野善郎氏を始め、委員の皆様に感謝の意を表したいと思います。どうも有り難うございました。

 


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