日本ディベート協会通信 Volume 25. Number 1 2010.10.15 |
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巻頭言 | ||
JDA会長 矢野善郎 |
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残暑厳しい9月の数日間,恒例の学部ゼミ合宿のため山中湖に行っておりました。当ゼミでは,毎年ディベート漬け合宿を行い,合宿地もタイトルもディベートで決めます。今年は(高校英語ディベートとたまたま一緒で),超高齢化に向かいつつある日本社会が,どのような移民政策をとるべきかをテーマにしました。 合宿では,私が開発した「三つどもえディベート」形式で三チーム同時対戦します。ディベート自体の授業ではなく社会学のゼミなので,通常の肯定・否定型のディベートよりも,政策提言能力を高めることを狙いにしています。学生は三・四人ごとの班に分かれ,対戦時には,超移民社会派,移民拡大派,移民制限派(現状維持)の三つから大きな哲学を選択し,それを実現するためのプランを自分で工夫して提案することが求められます。三つどもえ形式では,例えば移民拡大派同士のディベートもあるので,政策哲学だけでなく,それを実現するための現実的なプラン作成能力も競うことになります。 どの班も合宿前にリサーチしてきて,三日間で三回ディベートを行います。しかも試合が終わるたびにダメ出しをくらい,次の対戦準備という形なので,学生にとってはかなりハードな合宿です(「飲み会で徹夜する人はよくくるが,勉強で徹夜しているのは初めてみた」と宿の人が驚いていました。うちの学生たちは,いわゆる「オール」の打ち上げを企てていましたが,そっちはむしろ眠気に負けて早めに店じまいになったとか)。よく言われているように,ディベート教育が学生の自主的な学習意欲がかきたてるということは,毎年実感します。 例年最終ディベートは,政策哲学的にもかなり曖昧さがなくなり,成長がみられます。審判も学生にさせるのですが,そのコメントも次第にシビアになっていき,プランの現実的なワーカビリティの要求水準も上がっていきました(ちなみに最後に強かったのは,カナダの移民政策を調べてきた,超移民社会派の提案でした)。 ここで感じるのは,狭い意味での学校教育手法にとどまらない,ディベートの有する民主主義教育の啓蒙力です。うちの学生たちは,ディベートを重ねるにつれ,自分の生活とは直接関係しないと思っていた移民問題をだんだん自分の問題として受け止めることになっていき,最後には飲み会などでも話題にするようになっていました(50年先には,今の大学生は高齢者になるわけです)。 今後の日本社会は,高齢化という未曾有の人口変動や,グローバル化にともなう国家そのものの変質,そして自然環境問題にも対決する必要があります。かなり大胆な政策をも,実行していく必要もありましょう。しかし,そのためには,社会問題を自分の問題としてとらえ,ステレオタイプを乗り越え,様々なアイディアを吟味し,最終的には多少の負担増をも受け入れていく現実的な人間を育てていく必要があります。合宿の折,ちょうど世間では民主党の党首選挙がどうとか騒いでおりましたが,民主主義的な啓蒙のためのディベート活動の重要性は,ますます高まっている,そう考えさせられた数日間でした。 (やの よしろう 中央大学准教授) |
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目次 | ||
特集 近代日本における弁論・雄弁 ● 特集● 2 シンポジウム「近代日本における弁論・雄弁」 2 ●一般記事● 5 第16回JDA春季ディベート大会決勝戦 5 ●JDAからのお知らせ● 23 2010年後期JDA推薦論題決定 23 第50回JDAディベートセミナーのお知らせ 23 編集後記 24 |
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編集後記 | ||
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