2007年度前期推薦論題会員投票のお知らせ




会員各位
日本ディベート協会(J.D.A.)論題検討委員会は,2007年前期の推薦論題の候補として,次の四つの論題案を選びました。

A) 日本は死刑を廃止すべきである。
(英語試訳:Resolved: That Japan should abolish the death penalty.)


 現在、死刑に関する世界の動きは死刑に反対する方向に向かっており、死刑を廃止している国と死刑執行を事実上停止している国の数は死刑を存置・適用している国を大きく上回っています。特に欧州連合(EU)では死刑廃止をその加盟の条件に盛り込んでおり、さらに、死刑廃止を世界に働きかけています。これに対して日本では2006年末に一年余ぶりに死刑が執行され、それにより死刑に対する関心が高まっていると考えられます。

 肯定側は、死刑廃止により無実の人々が生命を奪われる危険性を回避することができるということをメリットとして論じることや、死刑囚の人権について論じることにより、生命という基本的人権についての議論が深まることが予想されます。一方、否定側は死刑の存在が犯罪の発生を抑止するという議論を用いて、死刑廃止によって犯罪の発生件数が増えてしまうということをデメリットとして論じることや、被害者やその家族の感情を考え、死刑が必要なのではないかと論ずることにより被害者やその家族に関する人権についての議論が深まること、あるいは被害者の家族による加害者への復讐を防ぐことができないということをデメリットとして論じることが予想されます。昨今の凶悪犯罪の増加や被害者家族の保護をどのようにディベートの試合に取り入れるのかも見所の一つになるでしょう。

 2006年末の死刑執行により死刑に対する関心が高まってはいるものの、1997年前期に推薦論題としてディベートが行われた事があり、過去の議論を資料だけ変更して使うということになりはしないかという懸念があります。しかし、ここ数年の間にディベートを始めたディベーターにとっては逆に新鮮な論題となるのではなでしょうか。逆に過去のノウハウを生かすことにより、ディベートの議論をより深めることができるのではないかということを踏まえ、本案を論題候補として採択いたしました。

B) 国際連合は日本、インド、ドイツ、ブラジルのうち一ヶ国以上を安全保障理事会常任理事国に加えるべきである。
(英語試訳:Resolved: That the United Nations should add one or more of the following nations to the permanent members of the Security Council: Federative Republic of Brazil, Federal Republic of Germany, India, and Japan.)


 国際連合は創立60年を超え、加盟国も当初の51から191に増えました。それにも関わらず、安全保障理事会は第二次世界大戦時の旧連合国である米ソ中英仏5カ国のみが未だ常任理事国であり、権限が集中しすぎているとの批判が高まっています。その打開策としてアナン元事務総長を中心に近年盛り上がりを見せたのが、常任理事国を拡大するなどの安保理改革です。

 安保理改革の中でも、本論題案は特にG4として協力体制を打ち出した日本、インド、ドイツ、ブラジルの四カ国を取り上げました。また、安保理常任理事国入りに一番熱心な日本のみの国内規模で取り上げるばかりでなく世界に視野を広げた議論が展開していくことを期待し、4カ国を含めた論題を採用しました。

 肯定側は加盟国間の発言権格差是正、財政面の安定化、大国への牽制による安保理機能の回復などを論じることが可能でしょう。また、G4各国を取り上げてそれぞれの国にとってのメリットを論じることも可能です。否定側は常任理事国に入れなかった国々からの反発、機密情報流失などを論じることが可能でしょう。またG4以外の国の参加を対抗案として提出することも期待されるところです。

 この論題案作成にあたり、論題委員会で留意点として挙げられた事項は以下のとおりです。1. 肯定側が決められる権限が多く(拒否権を新常任理事国に与えるか、四カ国中どの国を取り上げるか、等)近年の傾向と比較すると広い論題である。2. 「安保理の常任理事国拡大」の実現可能性を論じた資料が多く、拡大によるメリット、デメリットの証明要件(内因性、重要性、解決性など)をきちんと論じている日本語の資料が見つかり難い。(学術論文、雑誌記事なども含めたリサーチが必要になる。英語ディベートの場合は英語文献リサーチの重要性が増す。)

 J.D.A.推薦論題として今まで選ばれたことの無かった国連が主語の論題であるということや、近年の論題と比較し幅の広い論題であることなど、日本のディベートコミュニティーにとって新たな試みとなる論題であり、本案を論題候補として採択しました。

C) 日本政府は、核燃料の再処理を禁止すべきである。
(英語試訳:Resolved: That the Japanese government should ban {nuclear fuel reprocessing / reprocessing of nuclear fuel / reprocessing of nuclear fuel waste}.
)

 核燃料の再処理とは、原子炉から出た使用済み燃料から、未反応のウランや、ウランから生成されたプルトニウムなどを抽出する処理のことをいいます。現在、日本は核燃料のリサイクルを政策として推進していて、その中の重要な要素の一つです。現在、青森県の六ヶ所村に施設がほぼ完成し、本格稼動に向けたテストを2006年春から行なっています。

 再処理には、燃料を効率的に利用できることや使用済み燃料の量を減らせるといった利点があります。その一方で、事故や放射能漏れなどの危険性や、抽出したプルトニウムによる核武装の可能性なども指摘されています。また、高速増殖炉を用いた本格的な核燃料リサイクルについて実用化の目処が立っていないため、それを前提にした再処理は不要であるという意見もあります。

 核燃料の再処理やリサイクルについては、賛成・反対ともに文献資料が多数あるとともに、原子力発電や核武装などとも密接な関係があり、多面的なディベートが可能です。また、2006年に六ヶ所村でのテストが本格化したり、高速増殖炉についての計画が再開したりしたため、非常にホットな話題でもあります。

予想されるメリット:
・事故や放射能漏れなどを未然に防ぐ
・核武装の可能性をなくす(議論次第ではデメリットにもなり得る)

予想されるデメリット:
・使用済み燃料が処分できなくなるため、やがて保管場所がいっぱいになり、
 そのときは原発を停止しなければならなくなる。
・核燃料リサイクルの崩壊に由来する弊害(ウランが枯渇した場合のエネルギー
 不足など)。

懸念事項:
 予想されるメリットとデメリットとを見比べて、否定側に若干不利ではないかという指摘が出ています。「核燃料リサイクルの崩壊」がデメリットとして機能するためには、プランを採らない場合に核燃料リサイクルが実現することが前提ですが、未来のことなので不確実な要因があるからです。しかしそれでも、核燃料リサイクルの実現可能性が高いと示してデメリットを大きくし、一方でケースアタック等によってメリットを小さくすれば、否定側は十分勝つことができるという意見も出ています。

 参考までに、かつて日本政府は、再処理で抽出したプルトニウムを高速増殖炉で燃やす計画を推進していましたが、「もんじゅ」の事故などにより、高速増殖炉の実用化の予定は2050年以降と大きく後退してしまいました。そこで、当面の間はプルトニウムを通常の軽水炉で燃やす(プルサーマル)ように計画を変更したという経緯があります。前者については核燃料リサイクルの効果は大きいものの実現可能性はまだ不確実、後者については実現可能性は高いものの効果は限定的、という特徴があります。

[2006年前期よりの継続]
D) 日本銀行は、インフレ目標政策を導入すべきである。
(英語試訳:Resolved: That the Japanese government and/or the Bank of Japan should adopt inflation targeting.)


 インフレ目標政策とは、1. 数値化された目標インフレ率(範囲)を明示し、2. 先行きのインフレ率を予見し、3. 目標と先行き見通しの差を埋め、目標を達成するように金融政策を行うというものです。

 インフレ目標政策は、日本と米国を除くほとんどの先進国の中央銀行によって採用されているものの、日本においては未だ本格的な導入には至っていません。本論題案は、日本における中央銀行である日本銀行(政府からは独立した機関になっております。)によるインフレ目標政策導入の是非について議論を行うものです。

 肯定側は、日銀が目標インフレ率を公表し、企業や国民のインフレ期待を高めることによる投資の活発化や、金融政策の信頼性・透明性向上による経済の安定化、そしてデフレからの脱却や物価安定などをメリットとして論じる事になるでしょう。一方否定側は、金融政策の自由度の低下や、現状のほとんど物価上昇のない状況から無理にインフレを起こす事によるハイパーインフレの発生、財政への悪影響などをデメリットとして提出することになるでしょう。

 現在、日本経済はデフレから脱却しつつあると言われる中、先日は日銀によるゼロ金利解除がなされました。こうした中にあって、デフレ脱却を主眼に活発に議論されたインフレ目標政策導入論はやや弱まりつつあります。また、経済の細かい議論を扱うため、かなり専門的な知識が必要になる可能性もあります。その上、論題の性質上「インフレ目標政策」の内容が肯定側によってコントロールされない状態で議論を進める際の不具合の可能性(プラン主体によるプランの実行阻止など)についても、論題委員会において指摘されています。しかしながら、金融政策が正常化しつつある今だからこそ、これからの日銀の金融政策の方向性を考えるために、インフレ目標政策の是非を議論すべき、という考え方もありますし、我々の生活と密接に結びつく経済・物価について、深く理解し、議論する価値は十分あると考えます。

また「インフレ目標政策」の内容自体も、ディベーターが詳細に検討する余地はあり、肯定側・否定側とも、論題を研究すればするほど深い分析の議論や、バリエーションに富んだプランを提出する事が可能です。新しい分析も多く出続けているので、シーズンが進んでも議論が固定化することなく、有意義なシーズンとすることができると考えます。以上を踏まえて、本案を論題候補として採択いたしました。


会員の皆様は、同封の投票用紙に必要事項をご記入の上、推薦論題としてふさわしいもの全てにマルをつけ、下記、田島宛に2月11日(日)必着でお送り下さい。



 投票の時点で会費を未納の会員は、投票権がありませんので、投票前に必ずお払い込みになったうえで投票してください。なお電子メールでの投票は受け付けません。投票は、必ず郵送かファックスでよろしくお願いします。(注意:送付先はJ.D.A.事務局ではありません!)

投票方法
1. 3つの候補のうち、後期の推薦論題としてふさわしいものにマルをつけてください。マルは複数つけて頂いて構いません。
2. 複数票 (N 票)を持っている団体会員は、マルを付けた候補それぞれに、N 票を投じたものと同じ勘定になります(例えば二つの候補にマルを付けたからといって、それぞれに N/2 票ずつ投じることになるわけではありません)。
3. 投票の結果、最も多くの投票のあった案を推薦論題とします。
集計方法の詳細
JDA論題検討委員会は、推薦論題の最終決定を会員投票の形で行っております。その際、推薦論題使用の現況に鑑み、団体会員,特に大会を主催する団体会員の意見をより重視する形で決定します。採決は、以下の規則に従って決定します。
1. 2月11日までに会員としての申込みの手続きを済ませている個人会員ならびに団体会員は投票権を持つ。
2. 団体会員は、基本票として5票持つ。ただし団体会員のうち、後期に大会を主催し、JDA推薦論題をその大会で使用する予定がある場合は、次のように大会規模に応じて上乗せした票を持つ。(大会規模に関しては自己申告に従います)
 その大会の昨年度の参加校数が
25校以上 計20票
10校以上25校未満 計15票
10校未満 計10票
不明,または今年度新設 計10票
3. 個人会員は、団体会員の票数の総計(棄権票も含む)を,投票権を持つ総個人会員数(棄権者も含む)で割った票数を持つ。(小数点2位以下切り捨て)

論題についてのご意見募集・投票に関する質問について

開票・発表は、上智大学(東京・四谷)SJハウスにて行なう予定です。日程につきましては、改めてJDA-MLでお知らせいたします。その際、推薦論題に文言上の微修正を加える可能性があることを予めご了承下さい。
なお会員の皆様には、投票だけでなく、論題文案についてのアドバイスや問題提起なども頂ければ幸いです。投票用紙の備考欄にご記入頂くか、委員長の田島か、JDA-ML までメールで御意見をお寄せ頂ければ幸いです(投票方法等に関する御質問も、そちらでよろしくお願いします)。

毎年、開票の際に、日本語推薦論題に基づき、おおむね同じエリアを持つ英語推薦論題の文言も決定・発表しておりましたが、昨年度よりJDAは日本語論題のみを作成し、英語論題に関しては試訳を作成するのみになりました。今回は、「試訳」として英文を掲載しましたが、こちらの方はあくまで参考のための試訳であり、正式には英語論題を使用する各団体に一任いたします。ただし、開票日には英語論題作成のための場所として議論の場をご提供しますので、ぜひご参加ください。試訳の文法・用語上の問題などがありましたら、是非上記メーリング・リストまでアドバイスをいただければと思います。

論題は、多くの人が関わる公共財です。なるべく多くの会員の方々の投票や知恵を結集して、良い論題を発表できればと考えております。是非ご協力お願い申し上げます。


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