2009年度前期推薦論題会員投票のお知らせ




会員各位

日本ディベート協会(JDA)論題検討委員会は,2009年前期の推薦論題の候補として,次の四つの論題案を選びました。

A) 日本政府は原則全ての企業に対してワークシェアリングもしくは同一労働同一賃金の導入を推進すべきである。

英語試訳:Resolved: That the Japanese government should encourage all or most companies to introduce work-sharing and/or equal pay for work of equal value.


現在、日本は世界的な経済危機の中、様々な業界・企業が大幅な減産を迫られ、人件費削減の対象は非正規労働者から正社員にまで波及しています。特に大きな影響を受ける非正規社員(有期限契約社員、派遣社員、パート労働者など)は1700万人を越え、被雇用者数の1/3以上を占めていることからも、問題の深刻さが伺えます。しかし一方で、正規社員のサービス残業等による過労死や心の病も増加しているというジレンマもあります。こうした労働環境の中、ワークシェアリングや同一労働同一賃金制と言った労使協調による解決策の必要性を叫ぶ声が高まっております。
 ワークシェアリングとは、労働時間の短縮により新たな雇用を創出する「労働の分かち合い」であり、同一労働同一賃金制とは、正規・非正規雇用者間の賃金などの格差を是正する「労働者の均等待遇」を促進する政策です。これらの政策は所得格差への影響だけではなく、労働形態の変化による育児・介護面への影響や、医療・教育・ハイテク産業等の特定の業界の進捗や衰退による効果など影響が多岐にわたり、幅広い議論が予想されます。
懸念事項として、目下日本政府、日本経済団体連合会、日本労働組合総連合会においてワークシェアリングの導入が検討されており、現状が情勢により大きく変化する可能性があります。従って本事項に関しては使用する各団体においてどう論題を用いるかやそのバランスに関して相応の注意が必要となります。しかし、これは対処可能な問題でもありますし、それを踏まえても現在大きな社会問題となっている労使環境に関してディベートする意義は十分にあることから論題候補として相応しいものであると言えます。

B) 日本政府は保険診療と保険外診療の併用を原則認めるべきである。

英語試訳:Resolved: That the Japanese government should basically allow the joint provision of treatments covered by the National Health Insurance and of treatments uncovered by the insurance.


この論題は「混合診療」を表したものです。現在、日本の公的医療保険制度では保険が適用される診療を限定しており、保険適用外の診療(自由診療)と保険内の診療を同時に受ける混合診療は、原則として認められていません。このため、保険内の診療に自由診療が加わった場合は保険内の診療も保険適用外とされ、本来であれば保険適用内の診療も全医療費を患者が負担しなくてはなりません。混合診療の解禁により、この全額負担が軽減される一方、保険外診療の選択肢が増えることにより結局負担は増加するとの主張もあります。また、国内外から診療、薬剤、医療機器、サービスや個人保険に至るまで営利的な参入が促進されることから、様々な利点や弊害がもたらされると考えられています。
現在全面解禁を強く求める規制改革会議と抵抗する厚生労働省が争議していること、また裁判で混合診療の法的根拠が争われていることなどから、旬な話題と言うことができます。現状の日本は高齢化社会への変化に伴う医療費の増大が不可避の状態であり、保険制度の見直しを含む医療制度の変革は不可欠となっています。そのため、世界一の高齢化社会日本の将来を医療面から問う格好の論題であると言えます。
なお、懸念事項としては、「混合診療」に当たる英語の定型表現がないため、試訳をthe joint provision of treatments covered by the National Health Insurance and of treatments uncovered by such insuranceとしています。そのため、日本語文献に見られる「混合診療」と論題の文言との間に差異が生まれる可能性があります。

C) 日本国政府は道州制を導入すべきである。

英語試訳:Resolved: That the Japanese government should empower the (local) autonomies established by integrating the (current) prefectures.


現在、人口減少や高齢化、確立しつつあるグローバル市場を背景に広域な行政課題が増えてきています。複数の都道府県での環境規制や交通基盤整備、観光振興等の課題への取り組みが必要とされ、また都市への人口集中と地方の過疎化が同時に進行しており、今後も広帯域な行政課題は増加していくと考えられています。その中で、現状の中央集権的な役割分担では地方ごとに原因の異なる広範な行政的課題に対して必要な対策を十分に行えないだけでなく、重複的で無駄の多い行政になり、必要な費用を負担できないなど急速に変化する地域の問題に現状の都道府県や中央政府は対応することが出来ていない側面があります。このため、道州制により明治以来の都道府県の区割りを再編し、さらに地方自治体に権限を与えることで、国と地方の役割分担を見直そうという動きがあります。
 今回、道州制を文言に表す過程で、「道州制」に当たる英語の定型表現がないため、道州制の本質は都道府県の区割りをより大きな単位で行う地方自治体の権限の強化であると位置づけ、そのために日本国政府が与えられる行政権限に規定する文言にいたしました。道州制の本質は国と地方自治体の行政区画を再定義する事により役割分担を変えていくことにあり、日本国内の様々な権限を委譲することのみから発生しうるものではないと考えたからです。また、主語を変え行政権限のみにすることで他の立法権、司法権等の権限等の一般的な道州制と異なる議論を避ける側面もあります。
肯定側は、二重行政によるコスト削減、地域の特色を生かした行政サービス、行政の役割の明確化による政策立案能力の向上、東京一極集中の解消などを論じることができます。否定側は、地域の文化やアイデンティティの消失、道州間の財政力格差の調整の困難化、政策決定主体が離れることによる行政サービスの低下などを論じることができます。本論題は、21世紀の日本のあるべき姿や、行政と市民との関係性について考える格好の論題と言えます。

[2008年後期よりの継続]

D) 日本政府は核燃料の再処理を放棄すべきである。

英語試訳:Resolved: That The Japanese government should ban nuclear fuel reprocessing.


近年、石油価格高騰など原料・資源問題が急速に進み、世界問題として深刻化しています。日本も強く影響を受けており、化石燃料依存を軽減するための打開策として使用済み燃料を再利用する、核燃料再処理(サイクル/リサイクル)の実用化が推進されています。核燃料の再処理とは、原子炉から出た使用済み燃料から、未反応のウランや、ウランから生成されたプルトニウムなどを抽出する処理のことをいいます。再処理には、燃料を効率的に利用できることや使用済み燃料の量を減らせるといった利点があります。その一方で、事故や放射能漏れなどの危険性や、抽出したプルトニウムによる核武装の可能性なども指摘されています。従ってバランスとしては、賛成・反対ともに文献資料が多数あるとともに、原子力発電や核武装などとも密接な関係があり、多面的(環境問題、外交問題、経済問題etc.)なディベートが可能です。


注意
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昨年同様、今年もJDAは日本語論題のみを作成し、英語論題に関しては概ね同じエリアを持つ試訳を作成するに留めます。こちらの方はあくまで参考のための試訳であり、英語の文言は英語論題を使用する各団体に一任致します。ただし開票日に英語論題作成のための場所として議論の場をご提供しますので、ぜひご参加ください。

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JDA会員の皆様には投票一週間前に,投票用紙が送付されますので,必要事項にご記入の上,郵送及びファックスを2月7日(土)必着でお送り下さい。

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電子メールでの投票は受け付けておりません。投票は,必ず郵送された正規の投票用紙の郵送もしくはファックスでよろしくお願いします。


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