第17回JDA ディベートセミナー報告



講義風景


練習試合前の準備風景


講義風景


練習試合風景
去る11月4日(日)、代々木のオリンピック記念青少年総合センターで開催された第17回JDA One-Dayディベートセミナーの報告をさせていただきます。
 参加者は26名、今回も新潟、長野、京都といった遠方からも参加いただきました。ご職業では電気メーカー、学生、自営業、また三分の一以上を女性が占めるなど、参加者はますます多様化しつつあります。
 午前中と午後の一部では、ディベートとは何か、本当に意味のある議論を行なうにはどのような点に注意すべきか、等についての講義を、矢野善郎氏にお願いいたしました。途中JDA日本語ディベート大会の決勝戦を録画したビデオを鑑賞しました。
 午後の後半は4チームに分かれて、「日本政府は,公共の建物や場所(道路・公園など)での喫煙を全面的に禁止する法律を作るべきである」という論題で練習試合。事前の準備があまりできなかった方も、試合では相手が出した議論をよく吟味し、噛み合う反論を展開する場面も見られました。試合前の準備の指導は、矢野さんに加え、瀬能和彦さん、安藤温敏さん、小西卓三さんにもお手伝いをいただきました、この場をお借りして感謝申し上げます。
 以下に掲げるアンケート結果をご覧のとおり今回も大好評でした。
 次回は2002年2月10日に開催する予定です。皆様のご参加をお待ちしており
ます。

日本ディベート協会理事 篠 智彰

講師報告

矢野善郎(JDA副会長、東京大学助手)
去る11月 4日(日)に代々木オリンピックセンターで開催された,第17回 JDAディベートセミナーの講師を担当させていただきました。その際に考えさせられた,初心者ディベート・セミナーで使用する論題の問題や,ディベートの「バリア・フリー化」の問題などを中心に,報告させていただきます。

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当日は代々木からも富士山がくっきり見えるほどの晴れの日だったこともあったのか,ほとんど欠席もなく,26名もの参加をいただきました。例によって,私が話しすぎたこともあり,休み時間にしわ寄せが来るきついタイム・スケジュールではありましたが,皆さん最後までついてきてくださり,今回も無事セミナーを終えられたと考えております。

私は,このセミナーの講師をもう何回も担当させていただいておりますが,そのたびに工夫すべき点・ディベートセミナー一般で注意すべき点など色々なことを学ばせていただいております。まず第一に,他の JDA理事・先生のサポートをいただいていることもあり,その場で直接色々なフィードバックがもらえるという点が大きいです。これは実は講師をお互いに育てあうと言う良いループになっていると思います。

色々な問題について事後に議論したのですが,例えば,入門者セミナーで使うべき論題はどうすべきかと言う問題などは結構重要かと思いました。このセミナーでは多分初めて,「公的な場所での喫煙の禁止」という論題で今回は実習をやってみました。サポートの講師諸氏からは,肯定側・否定側ともに基本的な立場が鮮明でないので難しかったのではないかとか意見が出ました(実際には試合には十分なっていましたが)。そして入門者用には,例えば「携帯電話を全廃すべきだ」とか,同じタバコでも「タバコの全廃」くらいにの方が盛り上がって良いのではという意見がありました。要するに,現実世界ではありえない論題にせよ,そうして作為的に肯定・否定の差が出る論題をもうけた方が,それぞれの側のグラウンドが鮮明になり,かつ資料なしに常識などで議論できるので「ディベート」になりやすいというのです。

こうした意見にはもちろん一理はあるのですが,私は前々から否定的な意見を持っています。今回も,現実にも実現可能性が全くないものとはいえず,かつ意見が割れそうな論題を選び入門ディベートをやって頂きました。私があまり作為的な論題に賛成できないのは,私としては,初心者のうちにディベートに対する偏った目を持って欲しくないと考えているからです。どうも大学英語ディベートなどでは,「ディベート」というのは,日常の議論とは全く関係ないゲームなのだ,と思っている人がどうしてもおります。たぶん最初の出会いが悪く,ディベートというのが単なる言葉のゲームなのだと紹介されてしまったのではないかと睨んでおります。一度そうした目でディベートを見ると,あとは言うなら予言の自己実現で,「日常の議論とは関係ない」と思って議論を荒らす人がいることで,ますます日常の議論とは関係ない「ディベ」が広まり,コミュニティ全体もまさに「日常の議論とは関係ない」ものになってしまうのが私の危惧です。

だからこれから学んでもらう人には,初心者のうちにも,ディベートというのが現実での論争と全く無縁のものとは考えて欲しくないし,現実の論争に寄与しうる意味にこそ教育ディベートを学ぶ価値があるのだと考えて欲しいと思うのです。だから常識のみで議論できるような論題や,あまりに現実感覚のない突飛な命題は,初心者向けにしろやって欲しくないと考えております。たとえ最初の敷居が,多少高くなっても,現実に足をつけ,互いの議論の論証の中身にまで踏み込むという議論自体の醍醐味にふれてもらった方が,セミナーとしての意味があるのではというのが私の立場です。もちろんこの問題については,今後も議論していく必要があるでしょう

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さて話を少し戻しますが,このセミナーが講師にとっても大変勉強になると言う第二の,そしてもっとも大きな理由は,その参加者のバラエティがきわめて広いという事につきると思います。基本的には,このセミナーに参加する方々は,「ネットでみて」という飛び込み型なので,普通の学生向けの講義や企業向けのセミナーなどと違い,ディベート経験やディベート習得の動機,年齢などなど,毎回顔ぶれが異なり,それ故,教える側としてもそうした多様性に対応するためのさらなる工夫の必要性などをいつも反省する良いきっかけになっています。

今回は視角障害者の岩本さんに参加をいただき,色々と教わるとともに,現在の日本のディベート教育体制の根本的な課題としての「バリアフリー」の問題について考えていくいいきっかけになりました。

実は,今回のセミナーの場合はかなりぶっつけ本番で,準備万端で岩本さんを迎えると言うのとはほど遠いありさまでした。テキストについては,事前にメールで送り,それを岩本さん自身が点字化(点訳)して下さったおかげで,前半の講義についてはあまり問題なく進められました。

午後のディベート実習については,こちらの受け入れ態勢の不備がもろに出ていたと思います。とりわけフローの取り方(ノート・テーキングのあり方)などについて工夫や打ち合わせがほとんどなかったこと,実習で使う論題に関しての資料については事前に送れなかったことなど,最低限でも改善すべきでした。

やはりバリア・フリー化の問題は,今世紀のディベート教育の課題として早急に取り組まないといけないと思われます。

少なくとも JDAには教える側のノウハウの蓄積は驚くほどないでしょう。この問題に取り組む際とりわけ念頭におかなくてはいけないこともその日学びました。それは,どうも私のような想像力の乏しい「平均人」は単純化して考えがちなのですが,一口に「障害」と言っても,きわめて様々なヴァリエーションがあるということなのです。

このことは実は岩本さん自身からの受け売りなのですが,視角障害者のノート・テーキングの方法を一つとっても,例えば幼少の頃から点字でノートを取ることになれている人もいれば,点字タイプを使う人もいれば,あるいは後年になってからの障害の場合には点字そのものにも不慣れだという場合もあります。私たちの蓄積すべきバリア・フリーのノウハウは決して一元的なものでなく,そもそも障害そのものの多様性を念頭におきつつ今後蓄進められていくものだと肝に銘じる必要がありましょう。

とはいえ当日に関して言えば,こちらの不備がありながらも,実際には,岩本さんと同じチームになったチームメートの方が素晴らしく,打ち合わせや試合運びなどの点で見事なチームワークがみられ(例えば資料の音読をうち合わせ中にして下さったチームメートの方がいました),また岩本さん自身の資質(記憶力)や工夫により見事な否定側第一反駁を展開して下さり,ぶっつけ本番の試合ながら,かなり良いディベートになりました。そしてそのお陰で,ほんの少しの工夫と協力だけで,ディベートのバリアー・フリーは問題なく実現できることを,私自身は完全に確信できました。このことは今回の,私にとっての最大の収穫でした。

他にも,岩本さんが自己紹介で,「ディベートでは立場によらず,意見を言うことができる」ということに惹かれて,今回参加なさったとおっしゃっていたのは,本当に印象的でした。ディベート教育に公的な意味があるとすれば,その筆頭に近い意味は,人の性別・年齢・国籍・身分などの属性で他者を排除するのでなく,公的な問題について「よりよき論証」のみを他者と積み重ねられる人間を育てうることにあるのでしょう。もうそうだとするならば,ディベート教育に一層のバリア・フリー化を進めることは,もはやディベート教育の存在そのものにもかかわる(レゾン・デートル?)課題と言えるのではないかと思われます。

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最後にセミナーの受講者,試合準備指導・ジャッジにあたってくださった安藤さん,小西さん,瀬能さん,そして誰より,毎回忙しい中,セミナー運営を着々とこなして下さっている篠さんには,心からの感謝を述べさせていただきます。

矢野 善郎  JDA副会長・東京大学(社会学)
参加者アンケート結果

アンケート結果(セミナーに参加しての感想)
○論点を見つけること、整理すること、相手にうまく伝えること、どれも予想以上に難しかったです。でもこの能力をもっと磨けば、もっともっと密度の濃い人生が送れるかな。(学生)

○一日で論理的な思考は身に付かないと思いますが、今日のセミナーの内容を忘れないよう日々勉強していきたいと思います。ありがとうございました。(自営業)

○自分のふがいなさやあがってしまう所を再確認できました。普段からメモをとる習慣をつけたいと思います。(自営業)

○ディベートの本は読んでいたのですが、自分で体験して、よりディベートがよくわかりました(ターンアラウンドにやられました)。次もセミナーがあったら参加したいです。

○とても面白かった。午前の講義もわかりやすかったし、チームメンバーも楽しい人達だった。4人とも1回は経験しているので有用な情報をたくさんくれてよかった。チームワークの勝利を味わえた。

○基礎的な議論の形、話し方などをもう一度見直すことができました。ステップアップの機会になると思います。(学生)

○短時間でまとめることが難しい。反駁でのまとめ方も難しい。初めてなのでこんなものでしょうか、これからも続けたいです。(会社員)

○他人との議論をするという行為を正式に行なったことが初めてであり、たいへん有意義であった。また自分の考え方をまとめる難しさを痛感した。(海上自衛隊)

○ディベートの定義がわかりました。今までは少し誤解していました。一日貴重な体験となりました。(海上自衛隊)

○スケジュール的には忙しいですが、これくらいの内容で良いと思います。今後教官として学生に対するディベートジャッジについて役立つことと思います。(海上自衛
隊)

○とても勉強になりました。参加してよかったです。(会社員)

○非常におもしろかったし、最初は弱いと思った主張も自分の主張を補強することで、始めは思いもよらなかったほど強くなる可能性があると思った。(会社員)

○日頃いかに言葉・議論をいいかげんにやっていたかを痛感させられました。議論するとはどういうことか少しだけわかったような気がします。とても有意義でした。ありがとうございました。(会社員)

○以前から勉強してみたかったディベートについて勉強し体験できたことで、「難しい、今の私にはできない」ことを再認識しました。今日は今後の訓練方法を教えていただいたので、実行していくつもりです。(会社員)

○ぼんやりとしかわからないけどすごい面白かった。(学生)

○聞くとやるとでは大違いでした。思っていた以上に難しいものでした。反省点は多々ありますが、ぜひまた機会を見つけ練習したいです。(学生)

○本当にためになりました。どのようにディベートを進めていけばよいか知れましたし、議論の仕方もわかったような気がします。思った以上に自分がスピーチできなかった事実をふまえて、今後、今日の経験をいかしてもっとうまくスピーチできるようになりたいと思いました。(会社員)

○初めてのディベートだったので非常に緊張したのですが、やってみて大変おもしろかったです。(学生)

○勉強になりました。特に議論のやり方、ディベートの方法論は役に立ちます。(自営業)

○勉強不足でした。(学生)

○矢野教授の講義は大変わかりやすく充実した時間を過ごさせていただきました。発表の難しさと楽しさ(ちょっぴりだけ)を体験できとても今日来て良かったと思っております。

○面白かったです。試合で側とのやりとりがスリリングで興奮しました。(大学教員)

○事前に本などを読むなどして学習してきたつもりですが、やはり人に習うほうが大きな学習効果が得られますね。初心者だけでやることの難しさ、指導者の必要性を感じずにはいられません。また、半日の学習後のディベートがそれなりにできたことに驚きました。ディベートを志す人々が集ったということでしょうか。(会社員)

○すごく役立ちました。(学生)

以上
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