第11回秋期ディベート大会決勝戦出場者の感想

加藤貴之編

2008年11月19日(日)に立教大学(東京都豊島区)にて、全日本ディベート連盟(CoDA)のご協力をいただき開催された本大会は、23チームが参加し、ディベート実験室Bチーム(安藤温敏, 玉置繁之)が優勝、ディベート実験室Aチーム(桂見惟子、上原伸幸、天白準也)が準優勝という結果になりました。最優秀ディベーターには、玉置繁之さんが選出されました。大会運営にご協力いただいた全ての方に御礼申し上げます。ありがとうございました。今回、本大会の決勝戦に出場された5名のディベーターに、大会を終えた感想を伺いました。(敬称略)


安藤 温敏さん(ディベート実験室Bチーム)

とうとう私がディベート始めてから20年が経った。我ながらよくこんなに続いたものだと思う。私が最初にディベートした、1988年後期の論題は忘れもしない"Resolved: That the Japanese government should promote environment protection by strengthening its regulation of public and/or private corporations."で、当時は原発や一部では核再処理施設のことなども話題になっていた。その後も原発廃止論題や、環境関連の論題で同じようなケースは何度も話題になっていた。

今回、かなり気合いを入れてリサーチしたつもりであったが、結局(またしても?)大した新機軸を打ち出すことができずに終わってしまった。20年かけて、単に同じような所をぐるぐると回っていただけのような感じもする。正直、今回の大会では、パートナーの玉置君のおかげで優勝はできたものの、喜びよりも「20年もやってこの程度か…」という落胆の方大きかった。

もしも決勝で否定側に立ったならば、いくつかやりたいことはあった。使用済燃料を再処理せずに保管することの潜在的危険性や、日本の再処理技術が失われることによる、海外での大事故の可能性など、多少目新しい議論は用意できたと思う。もっとも、これらの議論も、きちんとストーリーを作ろうとするとあまりに長大になってしまい、6分間では全く説明しきれないことが後日の練習試合で判明したのだが…。

この20年間、自分のディベート能力は大して進歩しなかったが、ディベート界全体では大きな変化があった。日本語ディベート界も、ここ十数年の間に、格段の進歩を遂げている。選手層の厚さには若干の不安があるものの、今回パートナーとしてチームを組ませてもらった玉置君を始めとする、トップレベルのディベーターであれば、理論的知識・考察能力やスピーチ能力は、私などより遙かに優れていると思う。

これから、ディベート界がどのようになっていくのか、想像するべくもないが、若いディベーターの「踏み台」としてでも相手をしてもらえるよう、これからも楽しみながらディベートに取り組んでいきたいと思う。



玉置 繁之さん(ディベート実験室Bチーム)

ディベートをしていない友人から、「ディベートって役に立つの?」と聞かれることがよくあります。私は、こういう質問をされるたびに、その質問はナンセンスだなあと思います。というのも、例えば野球をしている人に「野球って何か役に立つの?」という問いかけをするでしょうか?

ディベートという競技は、「論理的思考力を身につけられる」とか、「プレゼン能力が向上する」とか、そういう風に宣伝をされることが多い気がします。確かに、ディベートにはそういう効果もあります。しかし、そこが本質なのかというと、私にはそう感じられません。少なくとも私自身がディベートをしている理由は、論理的思考力が身につくからでもなければ、プレゼン能力を向上させるためでもありません。それらは、ディベートをしていたら自然と身についた副産物にすぎません(役に立つ副産物だとは思いますが)。

私がディベートをしている理由。それは楽しいからです。

ジャッジやオーディエンスが自分のスピーチに頷いてくれた時。第二反駁で試合をうまくまとめられた時。強い相手と試合をする時。良い議論が思いついた時。こういったときになんともいえない爽快感を味わうことができます。

そして、この爽快感を味わうためには、「真剣に勝利を目指す」、そのことが大事だと感じています。サッカーではゴールが決まった瞬間、選手たちは抱き合って喜びます。これはやはり、それまで真剣に勝利を目指して努力をし続けてきたからだと考えられます。ディベートでも、「役に立つ」という側面ばかりではなく、もっと「真剣勝負を楽しめる競技」という側面も強調されるべきだと思います。特に、他の競技と違いディベートでは資料探しが重要なので、努力が報われる可能性が高く、また怪我の心配なども不要な、老若男女問わず楽しめる競技なので、是非この楽しさをより多くの人たちと分かち合えるようになりたいと思っています。
いつもJDA大会では、そういった「楽しさ」を本当によく味わうことができます。特に今回は、安藤さんというトップディベーターと組んで、決勝では上原さん、桂さん、天白君というすばらしいチームと戦い、しかも勝利できたことは、本当に嬉しかったです。

JDA大会を開催してくださった関係者の皆様に、心よりお礼を申し上げたいと思います。本当に、ありがとうございました。


桂 見惟子さん(ディベート実験室Aチーム)

このたびはJDANewsletterに執筆の機会を頂き、誠に光栄に思います。春と秋に大会に参加させて頂くことができるのも一重にJDAの運営の皆様のおかげです。まずはお礼を申し上げさせてください。いつもありがとうございます。

さて、昨年秋の大会では決勝まで参加させて頂くことができましたが、その感想をとのことですので以下に書かせて頂きます。

● 論題について
正直に申し上げますと使用済み核燃料についての事前の知識はほとんどありませんでした。リサーチをはじめた頃は「私はこれで本当にディベートをする気なのか」と思ったほどです。当然ながら、インターネット、図書館の検索では"使用済み核燃料"でヒットする記事や本、雑誌をかたっぱしから見ていきました。軍事、環境、エネルギー問題、原子力工学、地方自治…と色々な観点からディベートができる論題であったと思います。ゼロからのスタートではありましたが、楽しくリサーチすることができました。

● メンバーとの思い出
かつてファイナルへの進出をかけて熱い戦いを交わした上原君と昨年の夏にNEDEの全国大会で再会しました。以前から一度上原君とはディベートをしたいと思っていたので私からお誘い申し上げました。上原君はロースクールでの勉強に忙しい中、戦略面をサポートしてくれました。最初は私がすべてのプレパをするという話でしたが、気づいたら上原君もプレパをどっぷり漬かってやっていました。そんな中、大会まであと数週間というところで練習試合にふらっと現れた天白隼也君がパートナーがいない、ということでしたのでチームに入って頂くことになりました。そんな感じで即席で集結したチームなので、短い時間で方向性を決めて細かい調整は練習試合で確認しながら、ということをやっていました。ファイナルでは安藤・玉置チームに敗北してしまったので、いつかまた3人でファイナルまで上がって、今度は優勝したいと思っています。

● 最後に…
私がはじめてJDAの大会に参加するようになったのは2000年の春期大会からですが、JDAの大会に参加しますとチームメンバーだけでなく、他団体の方々とディベートを通じて交流ができるところが楽しみの一つでもあります。相手が違うと同じ立論でも違った議論が展開されるところがディベートは有機的で面白いと感じています。今後も色んな人との交流を通じてディベートを楽しんでいきたいと思っております。



上原 伸幸さん(ディベート実験室Aチーム)

 今回のJDA秋期大会は初めてファイナルに出場できた大会ということもあり、自分にとっては思い出に残る大会でした。

 今回の大会論題については以前経験した「原発廃止論題」と似た部分があり、そういった意味ではなじみのある論題である一方で非常に専門的であったと思います。そのためか、大会当日になっても未だ理解ができない技術・用語・構造があり、その理解不足が予選から決勝を通して足を引っ張ったことは否めませんでした。

 このようないわゆる「技術系」の論題については論理というよりも知識の差がダイレクトに試合に反映されると自分では思っています。そのため今期の論題はリサーチ力をつけるという意味では適した論題であったなと思っています。また同時に専門的な知識をいかにジャッジにわかりやすく伝えるかという意味でプレゼン能力が試された論題でもありました。そういった意味では自身の課題として常々プレゼン能力、スピーチ能力を上げている身としてはこの論題を通してどのようにジャッジに伝えるかを研鑽できたと思います。

上記のような研鑽は自分にとってディベートの原則を改めて実感させてくれたと思います。それはジャッジとの対話という点です。自分のディベートスタイルが限られたスピーチ時間に多くの量の反駁を出すというスタイルであるためか、ジャッジとの対話という視点がややもすると欠けることがあります。しかしそれでは相手を「言い負かして」勝つことはあってもジャッジが「納得して」勝つことはありません。その点今回の論題ではジャッジの方に少しでもこちらの議論を納得してもらおう、議論を「伝えよう」ということを常に念頭においてプレゼンをしました。このような取組のおかげかいつものシーズンよりも自分たちの議論の意図をより積極的にくみ取っていただける試合が増えたような気がします。またディベートにとどまらず、授業におけるプレゼンやゼミにおける議論においても、より「伝えられる」プレゼンになったと思います。

最後となりますが、今回の論題を作成していただいた論題委員の皆様、またいつも大会を運営して下さるJDAの皆様に感謝を申し上げ感想とさせていただきます。



天白 隼也さん(ディベート実験室Aチーム)

天白隼也です。僕は大会の二週間前に桂さんと上原さんのチームに入れてもらえることになりました。無理があったにも関わらず快く迎えいれてくれたお二方には本当に感謝しています。

今回の論題の感想としては、しっかりと勝ち筋を立てるのが難しいなあというところです。僕はDAの方を任されていたのですがどういう方向でいくのかとても悩みました。

決勝で出したDAは、六ヶ所村の人は事故などのリスクを受け入れて再処理工場を置く決断をしたにもかかわらず、単純に事故等を理由に廃止するというAffのスタンスに対する疑問からきたものです。それで六ヶ所村に運ばれている使用済み燃料に対する責任のような議論を出して、受け入れたはずの事故リスクから論題を肯定するAffのCaseにあてていけばおもしろいかなあと思いました。決勝で上手く回せなかったのですが、今思うと積極的に論題を否定することができていないし、わかりにくいという気がします。正直僕がジャッジでも、僕自身が考えているようにDAを評価するのはなかなか難しいかと思います(笑)。死刑論題の時も感じたのですが、Negの場合は特にただ相手の議論を批判するだけではなくて自分から積極的に否定するためのストーリーを明確に出さないと厳しいですね。

とは言ってもAffはAffできっちりケースをたてて勝ちきるのはいろいろと大変なので、そういう意味でファイナルでBチームが読んでいたケースは良く練られていると感じました。特に事故について、再処理を行うプロセスに事故リスクの焦点をあてて、再処理を続ける限りリスクが残るというわかりやすい話になっているのが良いと思いました。

あと大会を通じての反省点としては、僕自身プレパを進めるまでは専門的でわかりにくいと感じていたにもかかわらず、試合でわかりやすいスピーチができていなかったということです。とはいえ、本当に基礎的なことから全て説明していては議論が深まりませんし、なぜ論題を肯定or否定するのかという大きな話の流れを最初に提示してからスピーチをしていくといった工夫が必要だったかと思います。この点に関してはこの論題に限ったことではないですし、自分自身あまりスピーチの仕方について意識していなかったので、これから直していかなければいけないなと痛感しました。


関連ページへ

2008年度後期JDA推薦論題

第11回JDA秋期ディベート大会結果
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