審判員の判定理由書


ディベートには、ジャッジと呼ばれる審判員がつき、勝敗を判定する。その際、バロットと呼ばれる判定理由をディベーターに提示する。以下は、そのバロットの内容である。<BR>

なお、このバロットは、試合終了後わずかな時間に執筆されたものであり、その時間的な制約から、極めて簡潔な記述となっていることを申し添えます。


臼井直人(ウエイン州立大学大学院)

 

否定側の否定論拠は、(1)ドナーが少ない、(2)よってレシピアントには1年や2年まだ生きれる人が選ばれる、そして(3)その少ないレシピアントは感染症で死んでしまうと言うものであったが、

 しかし、肯定側の立論で示されたように、毎々、そして将来的にドナーになってもよいという人が増えている。

実際に脳死になった人の家族すら、臓器移植に同意している現状を見ても、「死体提供すらいやがっているから脳死はもっといやだ」といっている現実は将来的には変わると予想される。よって、レシピアントの選択についても余命数カ月の人も含まれてくるであろう。

 それに「状態の良い患者」といっても、肝臓ガン、肝硬変の患者が5年以上生きているという証明はなく、逆に肯定側第一反駁で述べていたように、原則1年以上生きても、肝臓移植がなければ必ず死ぬ。そういう患者が5年以上いきることは、メリットのあることである。

 感染症については、レシピアントの全てが死んでしまうということではないし、他に不利益もみえない。よって、肯定側のプランを採択し、肝臓疾患者を少しでも助けた方がよい。

 

この試合における勝者は、肯定側、チーム名:神戸はかんばった。


瀬能和彦(王子工業高校)

 

1 生存率

・2AC/ 2ARで言っていたように、Negのcardは、肝臓ではない。

・Negのカードは、1年以上生存するであろう患者も選ばれると言っているだけで、全ての患者ではないし、かつ手術を受けなければ5年以上生きられた患者が選ばれると証明もされていない。1ACのcardsや、その前提となる医学的な常識に基づけば、planで生存年数が増えると考えるのは十分に理解できる。

 

2 感染症

・1ACのカードは、欧米ではあるが、肝臓についてのものである。Negのcardだけでは、この感染症の議論がplanで示された生存率をまるでくつがえしてしまうほど多くの患者に、かつ、ほとんど必ず起きるとは考えにくかった。

そういう感染症で手術をしなかった方が良かった患者も中にはいると思うが、caseを上回るほどだとは理解できないし、欧米の事例であるのだが、1ACの5年(完治)80%のカードの方が信頼できた。

 

この試合における勝者は、肯定側、チーム名:がんばろう神戸

 


古宅文衛(日本総研)

 

まず、“5年生存率80%は本物か?”であるが、Negの言うように、疑えなくもないが、“実際に5年以上生きている人ばかり選んでいる”というproofが弱い。また、2ACのevidenceでは、“必ず命を失う人の70%〜80%を助ける”、また、“少なくとも1年以上生存するであろう人も含む”とあるので、現実にほっといても助かっている人ばっかりを選んでいない、という解釈の方をreasonableとしてとる。Negは、もともとの部分のproofを固めるべきだったでしょう。

->(doubtはあるが、absoluteとしない)

 次に感染症の話。たしかにriskは残る、というか0とはとても言えない。ただ、上の議論で80%が残っていること、また、affの方だけが肝臓にspecificであること、Negからtiebreakerとなるものがしめされていないこと、により、AffのADがT/Aをoutweighすると考えます。

以上、 AD >T/A(感染症)により、神戸の老人チームがけーおーの若者をたおしたことにします。

 

この試合における勝者は、肯定側 チーム名:がんばろう神戸


井上奈良彦(九州大学)

 

試合は肯定側論点3にしぼられた。

1. 提供者数は、毎年数十人から数人というのは否定側も認めるところである。

これ以上増えるかどうかは不明確である。肯定側は、増加傾向にあるというが、具体的数字は不明。否定側は、死体からのじん移植に基づいて計算を行っているが、この数字と脳死者からの肝移植との関係が不明。

 

2. 生存率については、肯定側の「肝臓については移植しないと数カ月で死んでしまうのでそういう人が対象になる」という議論が最も信憑性が高いと思われた。そういう人について、70〜80%の1〜5年生存率が期待できる。

 

3. 免疫抑制剤による感染症の問題は、生存率の計算に含まれていると考えられる。日本の特殊事情として抗生物質の乱用の問題点が否定側から出されているが、どの程度影響するか不明。少なくともこの問題によって移植をした方が患者の命を短くしているとは私にはとれなかった。

 

 結論として、利益の大きさはわずかではあるが保証される。さらに提供者が増えれば利益も増大すると思われる。したがって、肯定側の勝ち。

 証拠資料の分析については、それほど差はなかったと思う。話術の差が勝敗に影響したことは否定しない。論点としては、否定側独自の不利益を少しでも守れれば(あるいは別の不利益を出せれば)良かったのにと思う。

 全体として、決勝にふさわしい良い試合であった。両チームを祝福したい。

 

この試合における勝者は、肯定側 チーム名:がんばろう神戸


小野剛(東京大学大学院)

 

非常にすばらしい試合でした。

 

・ドナーの数の増減

1ARでいっている、「これから増加傾向にある」という点は否定されていない。よって増えるし、DAは(仮に起きたとしてもtempral)

・オペによって「五年生きた」といえるのか?

a)(1)「状態の良い患者だけ選ぶ」理由として、否定側は「ドナーが少ない」ことをあげている。(2)しかし、上記のようにドナー数は増えて行くらしい。よって、常に状態のいい患者だけ選ばれるわけではない。

b)エヴィデンスの解釈だが、(1)2ACの「移植を受けないと、数カ月で死ぬ」(2)C-IIの「手術で80%生きる」の2例で十分だと思う。

           =>手術の効果がある(人もいる)

 

・感染症は?

(1)もともと生きられる人々にとっては、MRSAのリスクを負う。=>DA

(2)数カ月の余命の人は、ネットでADになる         =>AD

上記の統計データ「5年で80%」より、ADがDAをうわまわっているものと考える。

よって、ネットは>0

 

この試合における勝者は、肯定側 チーム名:がんばろう神戸

 

 



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