日本ディベート協会通信 第十四巻第1号
JDA Newsletter Vol.XIV, No.1, 1999
特集「日本におけるディベートの普及について」(その1)

1999.1.16


巻頭言

会長 井上奈良彦

 

  日本におけるディベートの普及について検討するにはいくつかの視点がある。今回のニューズレターでそのすべてについて十分な記事を載せることは当然できないが、今回の記事やメーリングリストでのやりとりを通じて議論が深まることを期待している。以下、いくつかの点を簡単に押さえておきたい。

1.どのようなディベートを普及させるべきか。いわゆるアカデミックディベートか、パーラメンタリースタイルか、西欧のものを導入するのか日本独自のものを考案すべきか、等々議論はつきない。私は、今までからも主張しているように様々な種類のディベートが目的に応じて普及するのがいいと考えている。どういう目的にどういうディベートがいいのかを検討していくべきであろう。

2.今までの普及の努力はどのようなものがあり、どの程度成功・失敗してきたのか。過去の成果(失敗)を無視すると、何度も「ディベートの草分け的存在」や「我々が初めて日本に本格的ディベートを導入」といったことを繰り返す羽目になる。

3.社会の基盤。以前にも書いたが、社会の中でディベートやディベートに特徴的なコミュニケーションの方法が用いられない限り、教育の中だけでディベートが大いに普及するということはあり得ないだろう。企業内教育、社会教育を通じてディベートを積極的に社会に広めていく活動も必要だろう。また、日本の中でコミュニケーションが価値の対立を表面に出さざるを得ないようになればなるほどディベートは普及するのだろう。

4.学校教育の中での普及。やはり英語クラブを中心とした普及では限られたものにしかならない。中学校や高等学校の国語科や社会科の中でどの程度指導されるかが鍵だろう。競技としてはディベートクラブが普及すればディベートの作戦などはそこで高度な訓練が可能になる。準備にかける時間と労力を考えれば、正規の授業科目の中でのディベートはあまり複雑なものにはなり得ない。一方、何でもディベートで教えようとか、何でもディベートで解決できるという考え方は無理があるだろう。

5.指導者の養成。大学・大学院でディベートやその指導法の研究が進まなければならない。ここでもディベート、さらにはコミュニケーション全般の研究・教育が英語教育から脱して一般(特に日本語による)コミュニケーションの教育・研究として定着し発展しなければディベートの本格的な普及はあり得ないだろう。ビジネスや裁判の中で必要な技能の訓練としてではなく、一般教養としてディベートや広くコミュニケーションが教えられなければならない。そしてその基礎となる研究が進むことが理想である。

  以上、ディベート普及を検討する上でのいくつかの視点を述べ、この問題をさらに読者のみなさんに議論してもらう手がかりとなればと思う次第です。

(いのうえ ならひこ 九州大学助教授)

 

 目次

特集「日本におけるディベートの普及について」

以下の方に寄稿をいただきました。

鈴木健(茨城大学助教授)、松本茂(東海大学教授)、二杉孝志(金城学園大学教授)、井上奈良彦(九州大学助教授)、臼井直人(愛国学園大学講師)

「第三回一日日本語ディベートセミナー」を終えて

11月に行われたディベートセミナーの講師である師岡淳也(茨城大学講師)が所感を掲載しています。

第4回 One-Dayディべート・セミナー開催のお知らせ

3月21日に行われる予定の標記セミナーの案内です。

 次回の講師は、矢野善郎(東京大学助手)です。

第5回春期JDAディベート大会のご案内

3月27日に神田外語大学で開催される標記セミナーの案内です。

1997年度後期のディベート大会結果

JDAが把握した、日本におけるディベート大会の全ての結果です。英語、日本語、一般、大学、中高生すべて網羅しています。

ディベート新刊書(5)

松本茂(東海大学教授)による、西部直樹氏(JDA会員)の著書「はじめてのディベート」の書評です。

編集後記

 

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