3.2 論題(propositions)って何?

 

  太郎君と次郎君と花子ちゃんと友達が、学校からの帰り道、捨て猫を見つけました。太郎君が「このままじゃ死んじゃうから、家につれて帰って飼ってあげようよ」というと、次郎君は「保健所に頼んで持っていってもらおうよ」といい、花子ちゃんは 「今から元の飼い主をさがしましょう」といいます。
  ウーンと皆で考え込んでいると、友達が「まず、飼うかどうかを決めようよ。誰が飼うかは後で考えようよ」といいました…



(1) 論題(proposition)の目的

 このようにいろんな意見が一度に出てくると、何を議論しているのかさえわからなくなってしまいます。

 普通の議論では、多くの場合、「捨て猫の扱いを決めなければならない」などという判断の必要性があって、それによって暗黙のうちに、判断すべき事項が共通の了解となって議論が展開していきます。しかし、教育ディベートでは、教育的効果を上げるため、また競技としての制約として最初にこの判断の対象となる事項を定め、これが肯定されるか否かを決める、という形で議論を進めます。この判断の対象となるべき事項がディベートにおける論題(propositions)となります。

この論題はディベートで扱われる肯定側のプランの範囲を定めるという役割も同時に果たします。

(2) 論題の種類・特徴

ア 論題発表の時期

 論題についてのリサーチや、証拠資料(evidence)を用いた論証を重視する教育ディベート(ポリシー・ディベート)の場合は、ディベート大会の数週間以上前に論題が発表され、大会の全試合に同じ論題を使用します。(実際は、年2回程度発表され、その論題を複数の大会で使用することが多い。)論題は、肯定・否定の双方に十分な論拠があり、現時点で決着が付いていない問題を選定します。

 一方、即興性を重視する教育ディベート(パーラメンタリー・ディベート)のでは、論題は同一の大会でも試合ごとに異なり、試合の数十分間程度前に発表されます。

イ 論題の種類

論題の種類はいくつかありますが、ポリシー・ディベートでは、政府の方針を問う、政策論題(例:「日本政府は、原子力発電所を廃止すべきである」、「日本政府は、たばこの販売及び消費を禁止すべきである。」)が主に用いられています。その他の論題の種類としては、事実論題(例:邪馬台国は、九州に存在した)、価値論題(例:「科学は人類を幸せにするか」「経済発展より環境保護が大事だ」)などがあります。パーラメンタリー・ディベートでは、価値論題もよく用いられます。

(3) 政策論題(proposition of policy)

太郎君と次郎君は学校の授業で「日本政府は環境保護のために公的規制を強化するべきである」という論題についてディベートするように先生に言われました。・・・



 

 政策論題は、ポリシー・ディベートで多く使用されます。政策論題を用いた教育ディベートを政策ディベート(policy debate)といいます。以下、政策論題について説明します。

ア 論題の主体(agent)

論題は主体(agent) +行為(action)から成り立っていますが、この場合、主体(論題の主語)は政策の主体として日本政府が多く用いられます。

イ べき(should)

 政策論題のもうひとつの特徴は、主体の行為が実践されるべきかどうかを議論するため、 「日本政府は・・・・するべきである」(the Japanese government should…) という形になっていることが多いということです。では「べき (should)」とは一体どういう状態をいうのでしょう。

 一般的な考え方では、論題が規定する行為が「べき」かどうかは、論題が採用された方が、論題が採用されなかった場合よりもよくなる(利益がある)かどうかで決定されます。肯定側には、これを論証する証明責任があるとされるのが一般的です。


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