9.1.2 解釈の基準(standard)ってどういうもの?

 

太郎君と次郎君が「日本政府は国立病院を増設するべきである」という論題のもとで議論しています。太郎君は「東京都の国立市に市立病院を一つ増設する」というプランを提出しました。次郎君は、「市立病院は国立病院じゃないよ」というと、太郎君は、「国立市にある病院でしょ」と答えました。

次郎君は、「国立病院の意味をそうとれば、日本政府、つまり国が市の施設をつくるということになり、文脈上おかしい」と反論しました…


 このように、否定側は誤った解釈を排除するため、「妥当な解釈がみたすべき基準」を提示し、それを満たしていない解釈の妥当性を否定しようとします。この基準を解釈の基準(standard)といいます。いくつかの種類がありますので順に説明していきます。

(1) 文脈(context) を考慮しなればならないという基準

論題は個々の単語の羅列ではなく、文章としてのつながり、文脈があります。したがって個々の単語の意味でなく、文章全体の文脈を考慮して個々の単語の意味を解釈していこう、という基準です。具体的には下にしめす文法的文脈(grammatical context) と分野的文脈(field context) があります。

@ 文法的文脈(grammatical context) を考慮しなければならないという基準

 これは、文章の中の単語は文法上の制約を受けているので、解釈もそれを考慮にいれなければならない、というものです。ただし、単語レベルの意味での文法ではなく、言語としてのルール全て、という文章レベルの意味での文法で、例えば修飾語がどの単語にかかるのかという問題や、可算名詞である単語(例えばpolicy が単数形であれば、それは個々の政策を指すのでなく、政策全体を指す、などという文法規則や、慣用句や熟語その他一切のルールを指します。

A 解釈の際に専門分野(field context) を考慮しなければならないという基準

 辞書等にはそれぞれ専門分野があり、単語の解釈はそれぞれ異なるため、論題の中の単語を解釈するときには、論題の専門分野の解釈を使用しなければならない、という基準です。

(2) ディベートに対する影響を考慮しなければならないという基準

たとえ、文法的に、分野的に妥当な解釈であったとしても、それがディベートの論題の解釈として妥当であるかは別の問題です。論題の持つべき性格として、議論が可能であるエリアが存在する、両サイドに対して公平である、等があります。従ってこれらを満たさないような解釈は教育的に妥当ではない、という基準が考えられます。


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